第14回研究会
(オンライン)
【テーマ】
万引き窃盗を反復する者の刑事責任について
2024年3月29日(金)
19:00~21:00
テーマ
万引き窃盗を反復する者の刑事責任について
【報告者】
小池信太郎先生
慶應義塾大学大学院法務研究科 教授
開催概要
●日程・開催時間
2024年3月29日(金)19:00~21:00
※後半40分間は意見交換
●形式
オンライン開催 Zoom(※)で行います
※Zoom(ズーム)とは無料で簡単に使えるWebサービスです。事前にアプリのインストールが必要です。
PC、タブレット端末、スマートフォンでご視聴いただけます。ご視聴にはインターネット環境が必要です。
参加に伴う通信料は参加者様負担となります。
●事務局
条件反射制御法学会事務局
受講費について
(参加費用)
●会員
1,000円
●非会員
3,000円
(2023年度会員年会費)
●会員の方
2023年度年会費未払いの方は、お申込み時に年会費を併せてお支払いください。
会員参加費に加えて、2023年度年会費 5,000円
●非会員だが2023年度の会員になって参加する方
会員参加費に加えて、2023年度年会費 5,000円
※会員資格発生後は、学会誌の最新号と会員向けメールマガジンをお送りします。
(1)参加費はお支払い後、参加者様都合の場合、返金はできかねますので、ご了承ください。
(2)ご入金確認後、研究会開催3日前までには、お申し込み時のアドレスへ参加用URLを送信します。
お支払い方法
●郵便振替
自動返信メールの記載を必ずご確認ください。
●クレジットカード
申し込みフォームより必要事項を入力しお支払いください。
※決済プラットフォームはStripe(ストライプ)を使用しています。
申込み方法について
上記タブ「申し込みフォーム」からお申込みください。
※申込完了時に申し込みフォームに記載された「連絡先メールアドレス」に自動配信されます。
自動配信メールが届かない場合は、受付が完了していない場合がございます。問い合わせ先のアドレスに照会をお願いします。
※HP申し込みフォーム以外の郵送・電話・E-mail等による申し込みは受理できませんのでご注意ください。
募集期間
募集を締め切りました。たくさんのお申込みありがとうございました。・クレジットカード決済の方:2024年3月26日(火)まで
注意事項
PCの問題、WEB接続環境が整っていない等の接続に関するサポートは行っていませんので、ご了承ください。
研究会についての問い合わせ先
条件反射制御法学会事務局 担当:寺内
E-mail:crct.mugen@gmail.com
研究会当日の緊急連絡先
NPO法人アパリ 担当:尾田電話:090-3047-1573
募集を締め切りました。たくさんのお申込みありがとうございました。
第14回研究会
「万引き窃盗を反復する者の刑事責任について」の紹介
小池先生には2023年10月に、条件反射制御法学会(以下、当会)が反復する逸脱行動に対する刑事司法体系を含む社会制度の向上に関する検討も行っていることをお伝えして、研究会でのご報告を依頼した。
小池先生がご快諾くださった後、私は不躾にも、反復傾向のある違法行為を行って検挙された者の責任能力に関する当会におけるこれまでの議論の展開を送付し、それについても、いくらかの焦点を当ててご報告いただくことも依頼した。私が送付した量は少なくないものであったが、小池先生はそれらを読破し、今回の研究会でご報告をくださることに深く感謝する。
また、ご報告の抄録の一部に、当会の議論の一部を記載してくださったので、参加する方にはぜひお目通しいただきたい。
次に記載することは私の考えであり、小池先生の抄録の記載と重複するところもあるが、さらに踏み込んだところもある。
私の主張の一つは、反復傾向のある違法行為の累犯者が多いのは、ヒトが行動する本当のメカニズムに従っていない裁判が実施されているからであり、刑事司法体系はその体系が基盤とする理論が誤っているというものである。
もう一つの重要な主張は、精神医学に関係する研究者や実務家が、ヒトが行動するメカニズムに関して検討を進めておらず、誤った理解に基づいて治療技法を構成し、したがって、ヒトが行動する本当のメカニズムを刑事司法体系に示せていないことが現在の不良な刑事司法体系の原因であるというものである。
私が提唱する対応体系では、判断能力の保たれた者による反復傾向のある違法行為が検挙された場合の裁判は、犯罪性は何か、疾病性は何かをヒトが行動する本当のメカニズムに従って把握するものであり、必ず刑罰の軽重を検討し、また、必要に応じて治療や訓練を強制あるいは勧奨するものになる。ヒトは過去の生理的成功行動を再現する第一信号系と、未来に社会的成功行動を選択する第二信号系の二つで行動するのであるから、対応する体系は、第一信号系には治療的対応を第二信号系には刑罰を準備しておかなければならないのである。
一部の治療側の者や法律の研究者は、判断能力がある状態でなされる反復傾向のある違法行為の非犯罪化、あるいは対応における治療の優先などを主張するが、それらは誤っている。なぜならば、仮に非犯罪化や治療の優先などの事態が生じれば、治療的対応は活発になり主に第一信号系へのはたらきかけはなされるが、反復傾向のある現在の違法行為をやめようとする第二信号系による逸脱行動を回避する努力を怠らせ、それらの行為に囚われた者を増やすのであり、したがって、社会を平安には保たないからである。
治療のみを優先する態勢は、刑罰と治療の内の一つだけを用いようとするものであり、刑罰のみを優先する態勢をもち大型の刑事施設をいくつももつ刑事司法体系が、刑罰と治療の内の一つだけを用いている態勢と同様の誤った主張である。
小池先生による抄録から、第14回研究会では上記の問題を真っ向から取り上げてご報告をくださると推察し、待ち遠しい気持ちがある。
2024年2月
条件反射制御法学会
理事長 平井愼二
テーマ:万引き窃盗を反復する者の刑事責任について
【報告者】
小池信太郎
慶應義塾大学大学院法務研究科 教授
万引きは、刑法の窃盗罪にあたる行為のなかで1回あたりの被害額はあまり大きくならないこともあり、検挙回数が少ないうちは、警察段階での微罪処分、検察段階での起訴猶予、略式裁判による罰金刑といった処分がなされ、検挙が続くと正式裁判となりますが、その初犯は多くの場合に(全部)執行猶予判決となります。さらに検挙されると実刑判決が想定されますが、その裁判の中で、被告人は、例えば窃盗症という精神障害により、万引きを「やめたくてもやめられない」状態であったことや、再犯防止のためには治療への取組みが重要であることが、精神鑑定や主に弁護側の訴訟活動を通じてクローズアップされることがあります。そうした事件では、犯罪の成否や処断刑の枠を左右する責任能力、そして有罪となる場合の量刑(宣告刑の刑期、実刑か執行猶予かなど)が争われます。
もっとも、窃盗症は病気であり、「やめたくてもやめられない」「治療が必要である」というだけでは、責任能力を争う主張、実刑の回避を求める主張のいずれに対しても、厳しい判断がなされるのが通例です。
精神の障害により、事理を弁識する能力又はその弁識に従って行動を制御する能力が欠けていれば責任無能力(心神喪失・無罪)、著しく減退していれば限定責任能力(心神耗弱・処断刑を減軽)であり、ここで問題となるのは行動制御能力ですが、窃盗症の場合、それが重度とされ、現に万引きをやめたいと思いながら多数回繰り返してしまっている事実があっても、それだけでは制御能力の欠如や著しい減退は認められません。例えば、最近の裁判例(東京高等裁判所令和4年12月13日判決。最高裁判所令和3年9月7日判決による差戻し後の控訴審)では、きわめて多数回窃盗を繰り返しており、罰金前科2犯・懲役前科3犯を有し、前々刑の執行猶予中に犯した前件の窃盗により実刑判決を受け、その上訴審係属中であった被告人がさらに窃盗を犯した事案が問題となりました。東京高裁は、被告人は窃盗を多数回行ってきたうえ、続ければさらに窮地に陥るのに抑えられていないことなどから、窃盗の衝動性が強く、窃盗症は重症で、その犯行への著しい影響があったという精神科医の見解を不合理でないとしながら、それを「精神医学上の専門的知見という限度……を超えて……過度に重視し、具体的な事実関係を踏まえた法的、規範的観点からの検討や判断を経ないまま……責任能力について最終的な結論を出すことは許されない」「窃盗症における衝動性の強さ及び重症度が高いことのみから直ちに責任能力における行動制御能力が著しく低下していたと判断することは……窃視障害とのぞき、露出障害と裸や下半身の露出、窃触障害と人込みなどで触る痴漢、ギャンブル依存と賭博行為等において、衝動性が非常に高い場合に、実務上、そのことのみから責任能力が限定されているというような判断をしていないこと等との整合性等にも照らすと、不合理」であると述べました。そのうえで、本件犯行につき、「取得目的が合理的に了解し難いものや、了解困難な数量の商品を盗むなどといった異常性はうかがわれない」こと、まず買い物かごに商品を入れて移動した後、周囲の様子をうかがいながら商品の一部を自分の袋に入れ、残りをレジで清算するなどして通常の客を装うなどの合理的行動をとっており、「周囲の状況に構わずに万引きをするなどといった犯行態様等の異常さもうかがわれない」ことなどからすれば、(窃盗の衝動が非常に強かったとしても)行動制御能力は著しく減退していなかったとして、完全責任能力を認定しました。さらに、これまで積み重ねられてきた多数の裁判例を眺めますと、限定責任能力かという次元にとどまらず、完全責任能力を前提とした量刑の重さに関わる相当程度の(=「著しい」とはいえない程度の)制御能力の低下についても、窃盗症だというだけで直ちには認められていません。精神医学の見地において、万引きの衝動性が強く、それゆえに繰り返してしまう状態が精神障害であり、その症状が重度であるとしても、そのことと刑法上の制御能力の有無・程度は同一の問題ではないという理解がとられていることになります。
また、治療の必要性があるという観点についても、そのことを主張するだけで、治療を刑事責任の追及に優先させるような判断は通常なされません。ただ、保釈中などに開始した入通院治療の効果が現に上がりつつあること、あるいは治療に向けた体制が具体的に整えられていることまで認められると、有利な情状として評価される傾向はあり、実刑回避の判断につながることもあります。刑務所でも一定範囲で治療の取組みがなされる余地はあり、また本人が意欲を持ち続ければ服役後に治療に取り組む余地もあることも踏まえつつ、実刑による本来の刑事責任の追及と、現実的な見込みのある治療を通じて社会内で更生する機会を(再び)与えることの間で、裁判官も迷いながら判断しているものと見受けられます。
こうした刑事司法実務の現状は、条件反射制御法学会における議論に参加されている少なからぬ方々には、不合理なものと感じられるかもしれません。万引きを「やめたくてもやめられない」ことがきわめて多数回の反復により実証されているのであれば、万引きを思いとどまる能力としての行動制御能力は欠けていた、少なくとも著しく減退していたという判断になぜならないのか。そのような万引きにも刑事責任を認めて刑罰を科すことの目的や正当化根拠についてどう考えられるのか。「やめられない」万引きを犯罪として非難しながら、その量刑上、病気としての治療への自発的取組みを評価するというのは、不首尾な対応ではないか。むしろ、万引きを「やめられない」度合いに応じてそれ自体に対する刑罰による非難は控えつつ、放置すれば万引きを繰り返してしまう病気に対して必要な治療を(安心して)受けられる社会的体制を整備することを前提に、有病者にその治療を受けることを義務づけ、その義務に違反する不作為を犯罪として定めるべきではないか。そして裁判では、万引き自体の処罰は、「やめられる」能力が認められる限りで、その度合いに応じて行う一方で、「やめられない」にもかかわらず治療を受けなかった不作為を(も)処罰し、また将来に向けて、強制力をもって治療を命じられるようにすべきではないか。そういった問題関心が、本学会における議論の中で示されています。
講演者は、刑法学を専攻していますが、このたび講演の依頼を受け、上記のような問題関心に基づく本学会における議論について(改めて)学ぶ機会を得ました。そこには、刑事司法の関係者が取り組み、少なくとも社会に対する説明責任を果たすべき刑法理論上・刑事政策上の課題が示されているということができるでしょう。そこで本講演では、前述のような刑事司法実務の現状について、刑法学者の立場から、できる限り合理的な内在的理解を示すことを試み、その延長線上でのありうる修正についても検討する中で、本学会の問題関心に向き合っていきたいと思います。そのうえで、研究会参加者の方々と意見交換を行うことをも通じて、本学会の活動に微力ながら貢献できればと考えています。
(参考文献)
小池信太郎「摂食障害・クレプトマニアを背景とする万引き再犯の裁判例の動向」法学新報123巻9=10号(2017年)663頁以下
小池信太郎「裁判例にみる依存症と再度の執行猶予――犯情評価との関係を中心に」季刊刑事弁護113号(2023年)41頁以下