理事長声明「生徒、学生の規制薬物乱用に対する教育機関の態勢についての提言」が掲載されました。


理事長声明
- 生徒、学生の規制薬物乱用に対する教育機関の態勢についての提言 -

条件反射制御法学会
理事長 平井愼二

 日本大学が、学生の所持する自己使用と思われる範囲の規制薬物を警察に提出し、学生は逮捕された。
 私は、日本大学は異なる対応を選択するべきであったと考えるのであり、次のとおり、生徒や学生による規制薬物乱用に対する教育機関の態勢を提言する。

1.規制薬物乱用に対する教育機関による具体的な対応
 教育機関は、規制薬物乱用から離れられない生徒や学生が健康な生活を取り戻すための援助を優先する態勢をもつことを、生徒や学生、また、社会に対して宣言するべきである。つまり、生徒や学生の規制薬物乱用を教職員が知っても、あるいは所持者が明確な自己使用と思われる量の規制薬物を教職員が発見しても、取締機関に通報してはならない。
 相談に訪れた生徒や学生に、あるいは、規制薬物を乱用しているという情報に基づいて対応する生徒や学生に、教職員は援助的な対応を試み、その上で、医療や専門的な相談が必要であれば、対応する他機関に援助を依頼することがよい。
 そのようなかかわりにおいては、定期的な規制薬物検出検査を予告して行い、生徒や学生による薬物乱用の有無を高い精度で把握し、指導の材料にできる。また、この検査は生徒や学生が規制薬物乱用から離脱することを促す。
 生徒や学生の行動や薬物検出検査の受け入れあるいは結果から規制薬物乱用があったと教職員が判断しても、教職員は取締機関には通報せず、援助的な対応を優先するべきである。
上のように援助を提供しながら、教育環境を安全に保つために、法の抑止力を用いることを生徒や学生に示すべきであり、それを実現する方法は次である。
 教職員は指導の当初に、生徒や学生の同意が得られれば、規制薬物の最終の乱用から規制薬物およびその代謝物が身体から排出される2週間ほどを経た後に、教職員から取締職員に、生徒や学生の氏名等とその者が規制薬物を乱用したと思われること、並びに、取締職員による面接とその後の一定期間の継続的な観察と指導を依頼する計画があることを伝える。
 この方法による取締職員への教職員からの連絡は、必ず生徒や学生の同意に基づくものでなければならない。また、教職員による相談指導の経過中に、生徒や学生が規制薬物を乱用しても、一貫して、教職員は取締職員に通報せず、援助的に対応することを優先する。この教職員の態勢により、生徒や学生は規制薬物乱用に関して自分および周囲に生じている問題に関して教職員に相談しやすい。
 一方で、取締職員は、観察と指導の経過中に規制薬物乱用の証拠が揃えば、職責に従って検挙する手続きを行うべきである。
 教育機関がここに示した適切な方法をとることにより、教育現場に取締職員が現れ、生徒や学生は規制薬物乱用に対する厳正な社会の態勢を体験的に知るのであり、また、薬物乱用をする生徒や学生がそのまま社会人になることを回避する方向に作用する。

2.疾病性と犯罪性のある問題への連携による対応の中での教育機関の役割
 この声明で提言する教育機関による規制薬物乱用への対応は、薬物乱用対策は社会にある関係機関の連携で行うものであるという前提を基にして構成したものである。連携とは異なる機能を持った機関や個人が集まって、各機能を発揮して、つまり、各機関が他機関とは異なることをして、問題に対応する作用を揃えるものである。
 規制薬物乱用は疾病性と犯罪性をもつことから、薬物乱用対策の効果を高く保つためには、疾病性に対しては援助、犯罪性に対しては取締という正反対の機能がそれぞれの作用を発揮するように関係機関の連携を構成しなければならない。
 教育機関は規制薬物乱用に対して強制力をもたないので取締側にはなりえず、教育機関が対応において優先するのは援助的なかかわりである。
 関係機関の連携において教育機関は前出の受容的な態勢で薬物乱用に対して疾病性に対する援助を優先し、ならびに犯罪性には取締機関から法の抑止力の提供を受けるよう努めて、生徒や学生を薬物乱用から守り、また、社会を支えるために最大の効果を発揮できる。
 仮に教育機関が取締的な対応を優先して通報すれば、一見、厳正で誠実な態勢に見える。しかし、その態勢は、規制薬物をやめられない生徒や学生が検挙を恐れて潜伏して規制薬物乱用を継続し、本人の健康と生活を脅かすだけでなく、規制薬物の購入により反社会的な組織を経済的に支えて社会を不安定な方向に向ける不良な結果を招くものである。
 教育機関が、規制薬物を乱用する生徒や学生にまずは援助を提供するために取締機関に通報せず、同意を得られれば取締職員との面接を設定して法の抑止力を提供する方法を、取締機関も社会も、教育機関が機能を発揮するための積極的な正しい行動であると理解するべきである。つまり、生徒や学生を通報しないことを教育機関に許可するという理解にとどまってはならず、その方法を実行することは、生徒と学生を救い、社会の平安を保つ効果を高めるために必要なものであると理解して、その実行を期待するべきである。
 その理解の上で、当然ではあるが教育機関には法の抑止力が欠落しているのであり、取締機関は連絡の対象となった生徒あるいは学生に一定期間の継続的な観察と指導をするべきである。

以上

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