会員の皆様
東京2020オリンピックが終わりました。新型コロナウイルス感染症患者の数は多くなり、変異株は感染力が高いという情報があります。そのような不安な情報もありますが、一方で、ワクチンは2回打ったらよく効くという情報もあります。 早く治まって欲しいものです。
さて、当学会の第十回学術集会まで1か月ほどになりました。今年も昨年に続き、オンラインで開催します。学術集会のテーマは「トラウマと逸脱行動」です。プログラムは自由報告、対談があり、その後に司会者を含め法律家4人によるシンポジウムがあります。次で第十回学術集会の頁が開きますのでご覧ください。
第十回学術集会:https://crct-mugen.jp/meeting/10th-meeting/
シンポジウムのテーマは「本当はどのような有責性があるか」です。薬物乱用、痴漢行為、万引きを反復するヒトの何が責められるかを検討します。
今回の学術集会のテーマとシンポジウムのテーマから言葉を取り出して繋げ、時期と体験を加えてストーリーにして、検討するべき焦点の1つをあぶり出すと、次のようになります。環境と行動を制御できない幼少期に、周囲の大人のせいで、つまり、社会のせいで過酷な時期を過ごし、トラウマをもつようになった子どもが、思春期を過ぎた後に、そのトラウマが原因となって生じた違法行為に関して、その主体であるヒトに本当はどのような有責性があるかというものです。
対談では日本EMDR学会理事長市井雅哉先生と私(平井)の話でトラウマをもつヒトが逸脱行動を起こしやすいという疾病性のメカニズムが示されると思われます。
そして、シンポジウムが検討の焦点とするのは、疾病性が影響して生じた違法行為には、どのような有責性があるかというものです。さらに、疾病性への対応の検討まで進めばよいと考えています。
さて、ここからは特に、精神科医療やカウンセリング、生活訓練などを通して、対象者に援助的にかかわっている職種の方に、読んでいただきたいことです。
シンポジウムが検討の焦点とするのが、裁判での判決の内容だからという理由で、援助的にかかわる自分たちに関係ないことだと考え、興味を失ってはいませんか。
しかし、裁判で間違った判断をしているのは援助側の専門家達が間違ったことを言っていることが原因になっている可能性が大きいのです。また、裁判官や検察官、弁護士が従う考え方の概要を知らないままに、刑事司法体系に誤った過度な期待をしてはならないのです。刑事司法体系と治療体系は、それぞれの職員が自分がいる領域と異なる側の実情を知らないことがおそらくは原因となって、連携するべき2つの領域がばらばらの態勢をもっているのが現在の状態です。異なる領域の考え方を知らなければなりません。そして、意見を伝えなければなりません。それが連携を成立させる作業の始まりです。
さて、援助側の専門家の中に、「本当はどのような有責性があるかを検討する必要はない。薬物乱用や痴漢行為や万引きは悪いことなのだから、まずは犯罪として刑罰を与えればいい。そして病気なのだから治療や訓練も強制すればいい」と考えている方はいませんか。
そのような考えのようにはうまくいかないのです。なぜならば、刑事司法体系は強制的にものごとを進めます。何かを強制するには理由が必要です。
薬物乱用や痴漢行為や万引きを裁判では通常、犯罪だ、自由な意思で行った犯罪だと決めて、それを理由にして、刑罰を与えているのです。犯罪と決めたら、病気ではないので、病気に対する強制的なはたらきかけは検討するのがおかしいのです。
仮に、薬物乱用や痴漢行為や万引きを病気だと決めてしまったら、現行法では、刑罰を与える刑事司法体系のかかわりはそこまでです。
だから、裁判において検察官は、自分の役割に従って、ヒトは意思で行動するという考え方が基盤になっている現行法を用いて、薬物乱用や痴漢行為や万引きは、自分の意思でやった犯罪である、と声高らかに主張します。
裁判官も、治療も必要かなと考えても、現行法に従い、裁判では犯罪だと評価して、刑罰を言い渡すことがほとんどです。最近は摂食障害のある万引きに関しては少し変化が見られ、疾病だと評価することもあります。しかし、その場合でも、治療を強制する制度はありません。違法行為の原因となる疾病には、刑事司法体系はその特性である強制力をもって働きかけないのです。
つまり、現行法は薬物乱用や痴漢行為や万引き等の反復する違法行為の要素に十分に対応できる処遇を導きません。現在の裁判では、簡単に犯罪だと決めて刑罰を与えるけれど、治療や訓練には無関心で、その誤った評価と導かれる処遇が次の違法行為に結び付いており、疾病状態に陥ったヒトを救わず、社会に損害を与えるままに放置しているのです。
現在の裁判で違法行為の原因を不適切に評価しているので、それを改善し、しっかりと、本当はどのような有責性があるかを検討し、従って、本当はどのような疾病性があるかも明確にすることが必要なのです。その作業が正当になされれば、有責性と疾病性に対応するはたらきかけを各機関の特性に従う強制力をもって提供できる制度が検討され始めるのです。
CRCTを受けた方からの報告
私ストーカー行為への関心がなくなっていく(その1)
K.K.
(2021年6月12日寄稿)
私は、専門学校生時代から好意を持った相手に対してストーカー行為を行ってしまう問題を抱えています。一度はじめてしまったストーカー行為はやめようとしてもやめられず、相手の気持ちも全く考えられない状態でした。
その病気を治すために条件反射制御法の治療を受け、現在は維持ステージの治療作業を続けています。
治療を受けるまでは、私のストーカー行為は自分自身全く罪悪感もなく、相手に電話を掛け続けたり、時には危害を加えたりもしてしまい、結果、何名もの女性に迷惑をかけてしまっています。
その度に次こそはストーカー行為を止めようと決意するのですが、また別の異性に好意を持ち、自分の思うような結果にならなかった時にストーカー行為を繰り返し、私はどうやって止めればいいのか入院するまでわからない状態でありました。
入院当初一週間くらいは、テレビを見ていても、日常生活にある物を見ていても、相手の事を思い出し、会えない苦しさが生じ、とても苦しい思いをしていました。
具体的には、例えばTVで相手が応援しているタレントを見るだけでも相手に会いたい気持ちが出ていました。相手の身に着けている関係の物や好みの色、普段使用している商品や好きな食べ物、デートに行った場所等をテレビや雑誌でみるとストーカーの欲求が出ていたのです。
入院当初はストーカーの欲求は出ていましたが、治療の第一歩である制御刺激を毎日20回以上実施していると、制御刺激の回数を重ねるごとに気持ちが落ち着くようになってきました。
テレビや雑誌の中で最初は反応があったものが制御刺激の回数を重ねた後に見ても苦しさの程度が弱まっていたので、効果を大きく感じることができたのです。
さらに、良かった事の書き出しを100話ノートに進めていくことで私の過去の楽しい思い出をたくさん思い出し、幸せな気分になり、ストーカー行為をする意味をあまり感じなくなりました。
ところが、次の段階である疑似へと進行し、つらかった事を100話書き出す作業を開始すると、当初は、隠されていたストーカー行為をしたいという思いがまた呼び起こされるような感覚に陥ったのです。つらかった事はすごく苦しく、思い出すのもストレスとなるため、初めはとても大変な作業でした。
疑似の作業は、私はスマートフォンを使用してのストーカー行為が主な問題行動のため、スマホでのメッセージ送信動作を実施するものでした。当然疑似なのでスマートフォンは黒い画面のままでアプリケーションも起動していません。
ところが疑似を始めたころは、本当に相手の女性にメッセージを送信しているような感覚に陥り、黒い画面のはずなのにLINEの画面がスマートフォンの画面に見えるのです。私の気分は高まりますし、相手に会いたい気持ちやメッセージを送信したいという欲求が発生しました。さらに、つらかった事の書き出しによるストレスでイライラもしました。
しかし、いらいらしたときには制御刺激を実施することで私はその気持ちをピタッと止めることができていたのです。何より、就寝前に良かったことを読み返す事で自分自身つらいことばかりではないと悲観的にならなかったのは大きな助けになり、過去によいことがあったと確認できたことは収穫でありました。
そのため、治療の効果を確実に感じることができ、対象の女性だけでなくストーカー行為自体への関心がなくなっていく自信にもつながっていきました。
疑似を実施していた当初の症状であるスマートフォンにLINEの画面が見えるという現象も、回数を重ねるごとに画面の見え方が徐々に薄くなり、最終的にはスマートフォンの黒い画面の上でただ指を動かしてメッセージを送る動作をしているという状態になり、全くストレスに感じなくなっていました。
つらかった事を100話書き出す作業も無事に終わり、達成感も感じていました。
自分の中ではそこでかなり治療は進んで治っているという気持ちでいましたが、次の想像ステージでもう一度その気持ちを改めることとなったのです。
想像は、私のストーカー行為をその日の朝目覚めてからの場面を順に想像する治療作業で、最終的にはストーカー行為は成功しなかったように想像し、空振りにします。私の問題行動は自宅の自室から始まり、その後、行った場所やスマホを操作していた場所などその一つ一つの想像する話によって全く違う場面でした。
想像を実施するときは目を閉じて実施しますが、最初の100回くらいまでは「カラーであり且つ動画」でその場にいるかのように感じ、相手の女性に本当に会いに行くような気分になったり、スマートフォンでメッセージを投稿したい気持ちになったりしました。想像は結果を空振りにすることを決めて開始し、実際に想像の中で結果を空振りにできていましたが、想像中は気持ちの高まりを感じました。
そのため、私にストーカー行為を生じさせる刺激はまだ抑えられていないものが沢山あったことに改めて想像の治療作業で気づかされました。
同時に疑似も実施しました。疑似ステージ終盤から見えなくなっていたLINEのアプリ画面も一時的に見えるようになった事もあり、不安に感じてしまう時もありました。しかし、その気持ちの高まりも制御刺激を実施することにより治まり、ストーカーをする気をなくすという治療の効果も確認することができました。
想像は1日20回以上を行い、最初は動画且つカラーで自分の周りにあるものが見えていたものが、150回目くらいから少しずつカラーではなくなり、問題行動に関係のない場面に関しては早送りをしているような感覚となりました。さらに、相手の顔を思い出せなくなるようになってきて、想像をしていても気持ちの高まりも感じられず、ストーカー行為に関する関心がなくなっていくことを、想像を反復し、実感しました。
ストーカー行為の相手の顔も思い出せなくなったことは、入院当初では考えられないような良い結果で、この治療の効果に驚かされるばかりでした。
実際のストーカー行為を行っている時と全く違う自分のような感覚になり、心のモヤモヤが晴れた気分になりましたが、そこで油断は決してせず、以前のストーカーをずっと止められない自分にならないために治療を維持しなければならないという事も十分に認識できるそんな入院治療だったと考えています。
そのようにして1回目の入院治療を終えました。