∞メール No.49

∞メールの全体は コチラ からダウンロードできます。
一部を抜粋したものを下に掲載しています。

とても暑い夏になりました。
皆様におかれましてはご活躍のことと存じます。

さて、今年度の学術集会は9月14日に開催します。
過去3年の学術集会で検討の焦点としたものは次のとおりです。
第10回:防御本能の過剰な作動
第11回:薬物乱用
第12回:生殖本能の過剰な作動
そして、今年の第13回は摂食本能の過剰な作動を検討の焦点にしました。
この4回の学術集会で、パブロフが本能行動として挙げた防御、摂食、生殖と薬物乱用に基づく過剰な神経活動への対応を網羅します。それらは精神科療域でも刑事司法体系でも、対象となる方の逸脱行動を生じる原因になっています。

今回の学術集会の冒頭では私が「二足歩行による思考と意識の成立」という題で講演をさせていただきます。この講演の基は、今月皆様のお手元に届いた学会誌に掲載されています。その内容は会則第3条(学会の目的)で謳うヒトの行動原理を明確にしようとする根本的な部分であり、この一年ほどでその理解に一部変更があった重要な事項を含むので、再度、皆様にしっかりとお伝えします。

未来の行動を選択するヒトの現在の思考は、過去の現象を再現する反射が構成しています。思考のメカニズムを、四足歩行から二足歩行への進化に伴って思考しない中枢から思考する中枢へ成長した経過を説明します。この講演を深く確実に理解していただくことで、無意識的な行動の正しい把握や治療の仕方、そして自由意思とは何かということをご理解いただけます。

第13回学術集会では、上記以外にもさまざまなプログラムが予定されておりますので次のURLを開いてご覧ください。
https://crct-mugen.jp/meeting/13th-meeting/

今回参加される方には、抄録をご覧いただけるURLを事前にお送りします。プログラムの一つであるシンポジウム「窃盗反復者の責任能力」においても私の報告があります。その抄録「本能行動の過剰な作動の初回から存在する疾病性」(この先、改訂があるかもしれません)を特別に次頁以降に掲載します。

今年も楽しい学会になりそうです。奮ってご参加ください。

平井愼二

本能行動の過剰な作動の初回から存在する疾病性

ヒトは刺激に対して無意識的に過去の生理的行動を司った反射連鎖を駆動する第一信号系、ならびに刺激に対して意識的にさまざまな反応を比較して未来の行動を選択する思考を生じる第二信号系をもつ。

防御、栄養摂取(摂食)、生殖は太古から動植物の生命を支えてきた本能による活動であり、動物による摂食は狩猟・採集、その後にときに生じる貯めこみ、最終の摂食で成立する。ヒトも万人が先天的にそれらの行動を司る反射連鎖をもつ。

その行動の最初に生じる狩猟・採集を司る反射連鎖の作動は、ヒトの社会においては食品等を入手する欲求を生じ、思考がその反射連鎖の作動を制御すれば、入手を社会的に正当な方法で行うか、入手を思いとどまるかのいずれかである。あるいは思考がその反射連鎖の作動を制御できなければ、違法な入手つまり窃盗が生じる。

被検挙者の窃盗が、窃盗に関して第二信号系の発揮できる制御より第一信号系による促進が強い状態で生じたものであれば、その行為に対して被検挙者に行動制御能力はなく、疾病性がその行為の原因である。したがってその状態にある被検挙者には治療や訓練を強制し、また、検挙前にその状態に対する治療や訓練の必要性を知りながら、それらを第二信号系が選択しなかったならば、その自由な思考に刑罰を科すべきである。それら2つの規定、つまり、治療や訓練を強制する規定、ならびにそれらを選択しなかった不作為を罰する規定を創設し、それらの規定に対応する援助体制を充実させることが必須である。

被検挙者の窃盗が、窃盗に関して第二信号系が発揮できる制御より第一信号系による促進が弱い状態で生じたものであれば、その行為に対して被検挙者に行動制御能力があり、したがって、刑罰を科し、治療や訓練は勧奨の範囲に留めるべきである。

窃盗を制御する第二信号系の強さは、刑罰と強制処遇の内容および行動制御能力の判定基準、取締の態勢等の社会的要素による。それらの要素は国民が望む社会を作るために決めるものであり、行動制御能力に影響し、窃盗の発生率を左右する。刑罰と強制処遇の内容および判定の基準を設定し、それを基に裁判で精神医学の専門家が加わって個別に被検挙者の行動制御能力を判定し、刑罰と処遇を言い渡すべきである。

行動制御能力の判定基準の設定、並びに被検挙者のそれの判定は、窃盗行動が発現するまでの生活歴等も要素にするべきである。

後天的な反射が本流となる規制薬物摂取に関しては、初回あるいは反復されていても初期のものは、違法な行為であると知り、計画し、思考が制御できる状態でなされるものである。一方、先天的な反射が本流となる本能行動の過剰な作動は、先天的な反射連鎖が、過去の過酷な体験あるいは神経発達症や知的発達症の影響によっても生じやすくなるものであり、初回の窃盗の一部は、自分が窃盗を行う状態にあることを主体が知らず、生じるものである。