∞メール No.39

∞メールの全体は コチラ からダウンロードできます。
一部を抜粋したものを下に掲載しています。

会員の皆様
よい季節を楽しまれている方が多くいらっしゃると思います。もうすぐ梅雨に入りますが、その後には再び、強い太陽の日ざしが眩しく、空と海が青々と輝く季節になります。

当会にも変化があり、今年4月から新たな役員の構成となりました。この∞メールで新理事の梅本和正さんが自己紹介をします。

今年になり、当会は研究会を開催するようになりました。この∞メールにも予定を載せましたのでぜひ参加ください。参加が難しい場合は、報告者の抄録や私による報告者の紹介をHPでご覧ください。また、今後の研究会開催に向けて、どなたか推薦したい方がいる場合や、ご自身が報告を希望される会員の方は、報告のテーマを添えて学会事務局にメールでご連絡ください。お待ちしております。

平井愼二

新役員紹介

私は言語聴覚士(ST:Speech Therapist)をしております

梅本 和正
(2022年2月15日寄稿)

はじめまして。このたび条件反射制御法(CRCT)学会役員の末席に加えさせて頂きました梅本と申します。よろしくお願い致します。

条件反射制御法(CRCT)研修では平井先生はじめ、スタッフの方々に大変お世話になりました。2日間の条件反射制御法研修(初級)では、平井先生が条件反射の理論を地球の歴史、生命体の誕生から解き明かしてくださりました。私は動物としての人間の存在を改めて考え直すことができました。

改めて高校の生物で習ったパブロフの条件付けの復習をして、大学の教養で学んだ心理学の歴史には裏があることに気づいたのです。つまり心理学は人間の心の研究として、ヒトを動物として見ることを軽視してしまったということです。言うまでもなくヒトも動物の一種です。私の物事の見方が逆転したといっても過言ではありません。

5日間の条件反射制御法実地研修(中級)では、研修生は自身が確認テストを受けて指導されながら、逆に入院患者さんに確認テスト受けさせて指導します。この双方向の仕組みで知識が深く浸透していきます。いま流行のアクティブラーニングも顔負けです。そして、実際の治療課程に参加することで「これは本物だ」と芯から思いました。治療効果、理論、記録用紙や書き出しの原稿用紙の膨大さ。それを丹念に記録する熱心なスタッフ。衝撃的で感動的でした。洗練された研修教育・職員教育には医学教育の神髄を見た思いがしました。

条件反射制御法には素晴らしい面が多々あると思います。理論だけでなく教育法でも、条件づけを現場に反映させていると思いました。平井先生は患者さんに対するのと同様の熱意で私たち研修生を懸命に指導し教育してくださり、驚くことに研修生からも学び、ご自分を変革進化させようとさえされていました。その姿にあこがれた私は、微力ではありますが、CRCTがもっともっと世の中で認められるように、学会のお役に立てればと考えるようになりました。

私は病院で言語聴覚士という言葉のリハビリの専門職に携わり、大学の講師もしています。言語障害、言葉そのものを治療対象とする職業なので、平井先生の厳格な用語使用には共感できます。

病院では、失語症や構音障害、認知症など脳卒中患者の治療が中心で、「依存症」と呼ばれる病態の治療は標榜しておりません。私は「依存症」より「反復する行動」の方が正確であると理解しています。依存状態とは、身体内に定常的に存在する薬物による阻害に対して、当初は劣勢であった身体機能が徐々に亢進し、不安定ではあるけれども均衡を保って機能する状態です。

「依存(dependence)」という用語は国際的にも定着しており、誰でもが知る一般用語ではありますが、私はヒトの行動原理を根本から見直そうとする条件反射制御法学会が依存の言葉の使用をやめようとしていることに賛成です。

私は一般用語の代りには内臓感覚に合致した『腹に落ちる』用語を策定する必要があると考えます。内臓感覚は太古の昔からの経験が蓄積された感覚です。内臓感覚から生まれた独自の用語は、読み手や聞き手に「これは何だろう」と思わせ、注目を集め、立ち止まらせ、考えさせる効果があります。その一方、一般用語と異なるので普及には時間がかかります。

腹落ちする独自の用語を策定するにあたっては、私はまだまだ勉強不足です。言葉にされたがっている内臓感覚の思考を言葉にする試みは、難解と言われるラカン精神分析や、ロジャースの弟子ジェンドリンによるフォーカシングやTAE(Thinking At the Edge)も学ぶ必要があると思っています。

反復する行動に対応する専門家の多くは「依存症は病気です」の一言で片づけてしまうことで病因論を避けています。それに比較すると、CRCTは「生理的報酬あるいは同様の効果が特定の行動を司る反射を強化する」と原因を条件反射に焦点化し明確にしています。

CRCT以外の他の治療法の多くを原因追究せずに治療する対症療法のようなものに例えるとすれば、CRCTは原因理論を構築する根治療法にあたるものと考えることができるでしょう。アレルギーに例にとると、食事制限などのアレルギー物質の除去が対症療法で、少量のアレルギー物質注射による脱感作法が根治療法であると考えられます。ちなみに私ごとで恐縮ですが、私は花粉症(アレルギー性鼻炎)を脱感作法で治しました。

しかし、いまの医学では西洋医学の消炎鎮痛や手術による対症療法が主流で、東洋医学の漢方や針灸などでの体質改善による根治療法は劣勢であるのが現状です。対症療法では原因不明のことを便宜上『本態性』や『特発性』という病名をつけ放置しているのに対し、根治療法では陰陽二元論などわかりやすい病因論で独自の病名をつけています。

現代医学では対症療法が主流であるのと同様に、残念ながら、反復する行動に対していまは原因を追究しない治療法の方が普及は進んでいるように見受けられます。逆にCRCTは普及の点では出遅れていると思います。私にはCRCTは十分なエビデンスが示されていないために非科学的のそしりを受け、原因が一般常識では理解しづらいために怪訝に思われ、信用されていないようにも思えます。実は私もCRCT研修を受講する前は理解できませんでした。用語になじめなかったのも一因です。あまりにも、もったいないです。皆さんご一緒に解決して参りましょう。

さて、私が治療する言語障害の中で、脳卒中などの器質性疾患を伴わない障害があります。その一つが吃音(どもり)という音声言語障害です。吃音の原因には諸説ありますが、私は以下のように原因は条件反射であると考えています。

発声が滞る症状は、元来は恐怖に対して舌や喉の筋肉が収縮する(固くなって守る)防御反応であり、海や川に落ちた時に肺に水が入るのを防ぐ無条件反射であります。それが罰・不満・不安・罪(恥)・敵意といった心理的嫌悪刺激により日常の環境と条件付けられると吃音という病理になります。また、これを極端に刺激閾値が下がった状態、つまり、刺激に反応しやすくなった状態と言うこともできます。

ご存じのとおり、外敵からの防御には第一信号系による先天的な反応である戦う、逃げる、守る(固くなる・死んだふり《死後状態の再現》)の3つの方法があります。そのうち『逃げる』が最も簡単で効果的です。

心理的には、工夫や回避を繰り返して逃げてばかりいると、余計に怖さが増してきます。すると、さらに刺激閾値が下がり、ありふれた環境刺激にも反応しやすくなって、吃音が悪化します。そしてさらに新しい工夫や回避を重ねる、ついにはどの工夫も効かなくなり、人に会うのも怖くなるという悪循環に陥ります。

実は、条件反射としての吃音への対処法としては模範的な先例があるのです。函館少年刑務所に勤務していた廣瀬努という刑務官が刑務所で集団吃音治療を行い、受刑者の更生効果をあげました。廣瀬は吃音の原因が条件反射であることを見抜き、ロジャース・カウンセリングの形式で内臓感覚(無条件反応)を自覚し、詳細に観察し描写することで、いつの間にか身についてしまった条件反射(吃音)が消えていきます。そして受刑中の少年の吃音を治しました。

刑務所にいる少年達は廣瀬の集団カウンセリングを受け吃音を治すと同時に、前頭葉を使って意識する対象を広げることで、自分の本当の気持ちや被害者の気持ちがわかるようになり、更生が進み再び罪を犯すことがなくなるのでした。私は4年前から、吃音の自助グループ『言友会』にある『廣瀬カウンセリング』に入会し、この独自の吃音治療を学んでいます。いずれは詳しくご説明できることでしょう。

私は、こうした治療方法を言語治療では使ってはいたのですが、パブロフの条件付け理論を用いての分析には至っておりませんでした。そのため、今までは「なぜ患者さんの吃音は治りにくいのか?」を正しく説明できてはおらず、患者さんは勝手に工夫や回避などの意図的動作を使ってしまい、かえって吃音症状を悪化させてしまうこともありました。条件反射制御法を学んだことで、説明の説得力が増し、治療効果を向上させる臨床能力が私に備わったものと感謝しております。

私の勤務する病院には系列の地域包括支援センターもありますので、いずれは強制的な反復行動を抱える利用者さんのお役にも立てるかもしれません。CRCTの対象は、患者さんの病状を悪化させる様々な生活習慣、例えば食事や運動、精神衛生まで含めると本当に幅広いです。私も、さらに条件反射制御法適応の間口を広げる役割を果たせるかもしれません。

最後に、私のバックグラウンドも紹介させてください。東京生まれで千葉県育ち。それなのに和歌山出身でスポーツ好きの父の影響を受け熱狂的な阪神タイガースファン(虎キチ)になりました。大学のある茨城県で下宿し、米国遊学もさせてもらいました。埼玉県の病院や大学病院のある群馬県で勤務して、現在は、さいたま市に在住して浦和レッズのサポーターです。家族は公務員の妻と4男がおり、余暇にはスポーツ(水泳、野球、合気道など)とボランティア(国際交流や更生支援など)を楽しんでおります。

CRCTの社会的役割は更生支援の分野に限らず多方面で大変大きいものと思っております。学会に貢献することができれば光栄です。よろしくお願い致します。

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