第11回研究会
(オンライン)
【テーマ】
対人関係精神分析の基本と臨床
2023年12月11日(月)
19:00~21:00
テーマ
対人関係精神分析の基本と臨床
【報告者】
川畑直人先生
京都文教大学・教授(臨床心理学)
一般社団法人京都精神分析心理療法研究所・理事
有限会社ケーアイピーピー・代表取締役
開催概要
●日程・開催時間
2023年12月11日(月)19:00~21:00
※後半30分間は意見交換
●形式
オンライン開催 Zoom(※)で行います
※Zoom(ズーム)とは無料で簡単に使えるWebサービスです。事前にアプリのインストールが必要です。
PC、タブレット端末、スマートフォンでご視聴いただけます。ご視聴にはインターネット環境が必要です。
参加に伴う通信料は参加者様負担となります。
●事務局
条件反射制御法学会事務局
受講費について
(参加費用)
●会員
1,000円
●非会員
3,000円
(2023年度会員年会費)
●会員の方
2023年度年会費未払いの方は、お申込み時に年会費を併せてお支払いください。
会員参加費に加えて、2023年度年会費 5,000円
●非会員だが2023年度の会員になって参加する方
会員参加費に加えて、2023年度年会費 5,000円
※会員資格発生後は、学会誌の最新号と会員向けメールマガジンをお送りします。
(1)参加費はお支払い後、参加者様都合の場合、返金はできかねますので、ご了承ください。
(2)ご入金確認後、研究会開催3日前までには、お申し込み時のアドレスへ参加用URLを送信します。
お支払い方法
●郵便振替
自動返信メールの記載を必ずご確認ください。
●クレジットカード
申し込みフォームより必要事項を入力しお支払いください。
※決済プラットフォームはStripe(ストライプ)を使用しています。
申込み方法について
上記タブ「申し込みフォーム」からお申込みください。
※申込完了時に申し込みフォームに記載された「連絡先メールアドレス」に自動配信されます。
自動配信メールが届かない場合は、受付が完了していない場合がございます。問い合わせ先のアドレスに照会をお願いします。
※HP申し込みフォーム以外の郵送・電話・E-mail等による申し込みは受理できませんのでご注意ください。
募集期間
参加申込受付を終了しました。たくさんのお申し込み、ありがとうございました。
・クレジットカード決済の方:2023年12月7日(木)まで
注意事項
PCの問題、WEB接続環境が整っていない等の接続に関するサポートは行っていませんので、ご了承ください。
研究会についての問い合わせ先
下総精神医療センター 担当:寺内 〈受付時間:平日9:00~15:00〉
〒266-0007 千葉県千葉市緑区辺田町578番地
E-mail:crct.mugen@gmail.com 電話:043-291-1221(内線8328)
研究会当日の緊急連絡先
NPO法人アパリ 担当:尾田電話:090-3047-1573
参加申込受付を終了しました。
たくさんのお申し込み、ありがとうございました。
第11回研究会
「対人関係精神分析の基本と臨床」の紹介
川畑先生にご講演をお願いしたところ、快諾してくださった。その後、第8回研究会の私による紹介から抜粋して川畑先生にお伝えした私の考えの一部は次である。
「有名な心理療法をいくつか見比べることで、それぞれの心理療法が想定するヒトが行動するメカニズムが異なることが分かる。この状況は重大である。心理療法が働きかけるのは、ヒトという1種類の生物がもつおそらくは1つの行動メカニズムに生じた逸脱である。いろいろな技法が正当に存在できる理由は、健常な状態からの逸脱に対して、効果を表すメカニズムにおける差異によるという理由、あるいは働きかける逸脱の種類が複数あることに対応するという理由などに限られるはずであり、ヒトが行動するメカニズムが多様であるはずはない。しかし現状は、複数の心理療法はヒトが行動するそれぞれのメカニズムを想定しており、それらの差異は、名称に限られておらず、作用にまで至る。従って、現在の心理療法の多くは誤っているという結論を避けられない。」
第11回研究会を科学的なものにするために、私は上記を不躾にも送付した。また、可能な限り共通の言葉を使ってヒトの精神状態を改善するためのはたらきかけに関する検討を深めたいと考え、上の文を送付した後にも、私は川畑先生にさまざまな質問を送った。それらの質問の一部を編集してここに示す。
- 1.精神分析が想定する無意識は、第一信号系に合致するであろうか。
無意識とはパヴロフが唱えた信号系学説の第一信号系の作用であり、それを次のように私は理解している。第一信号系はヒト以外の4足歩行の動物の中枢と同じであり、防御、摂食、生殖を司って生命を保ち、進化を支えてきた中枢である。反射で過去の生理的成功行動を再現する。条件反射制御法はこの第一信号系を標的にして働きかける。
- 2.精神分析が想定する無意識が、仮に、第一信号系に合致しなければ、精神分析の無意識が作用するメカニズムはどのようなものか。
- 3.精神分析の無意識は、未来の行動を計画するか、あるいは過去の行動を再現するか。
- 4.精神分析では、無意識での現象を意識化すれば治るとする理解がある。このメカニズムはどのようなものか。
意識とは信号系学説の第二信号系の作用であり、それを次のように私は理解している。第二信号系はヒトだけが持つ中枢であり、社会的な行動を創造しようとする。第一信号系が無意識的に反射で行動を生じる際に、第二信号系がその行動が不適切であると判断したときに、制御する方向に意識的に作用する。
- 5.サリヴァンが安全保障操作と呼ぶ神経活動の代表的なものである、不快な体験から意識を遠ざける選択的非注意は、意識によるものか、あるいは無意識によるものか。
- 6.選択的に非注意された体験は、体験として吸収されないとのことであるが、体験として吸収される現象のメカニズムはどのようなものか。
川畑先生への私からの主な質問は現在のところここまでである。第11回研究会で回答を含めたご講義をいただけることが待ち遠しい。
パヴロフ生理学-脳と思考-(ペトロシェスキー著、1952年、岩崎書店)という本がある。その82頁から始まる項のタイトルは「生理学學と心理學の結婚」である。その項は続き、83頁には次の記載がある。「パヴロフは、科學的心理學の意義を否定してしまったとか、かれは心理學を生理學とすりかえてしまおうとしたとかいった意見は、まちがいである。パヴロフは、勸念論的なブルジョア心理學と戦い、こうした心理學は、動物と人間の高次神經活動を研究する上での障害物だと考え、この心理學によってつくりだされたものを『破壊したうえで新たにうちたてる』よう要求したのであった。」
パヴロフは挑戦的であるのだが、それだけではない。84頁には次の記載がある。「生理學と心理學とは單一の科學的方法によって武装されればいっしょになると、かれは深く確信していた。かれはこういっている。『私はおそかれ早かれ神經系を研究する生理學者と、心理學者はいっしょになって緊密な友誼的な活動をおこなうようになるにちがいないと確信している。』」
私は対象者へのはたらきかけはいかなるものも、ヒトが行動するメカニズムに応じた方法でなされるべきであると考えている。カウンセリングも他の技法や訓練などの援助的な働きかけに限らず、刑事司法体系の構成も同様である。必ず、現在自分が行っているこのはたらきかけは、第一信号系に対するものか、あるいは第二信号系に対するものかを明確にして、自分の役割を果たすことがよいと考える。対象者がどのようなものかを正確に把握し、その上で、対応するはたらきかけをそろえることが初めてできるからである。
川畑先生により、また、参加される皆様の活発なご質問とご意見により、第11回の研究会におけるご講演とその後の議論を、生理学と心理学の交際が始まる契機にしていただきたい。
2023年10月
条件反射制御法学会
理事長 平井愼二
テーマ:対人関係精神分析の基本と臨床
【報告者】
川畑直人
京都文教大学・教授(臨床心理学)
一般社団法人京都精神分析心理療法研究所・理事
有限会社ケーアイピーピー・代表取締役
対人関係精神分析interpersonal psychoanalysisは、欲動論を軸に展開されたフロイトの精神分析に対して、対人関係の重要性を強調する理論に基づいて組織化された精神分析の一学派です。創始者は、ハリー・スタック・サリヴァン、エーリッヒ・フロム、クララ・トンプソン、フリーダ・フロム・ライヒマンらなど、一時期は文化学派と呼ばれた、精神科医や心理学者たちでした。彼らによって立ち上げられたニューヨークの訓練機関、the William Alanson White Instituteは、現在も対人関係精神分析の拠点となっています。私はこの研究所で、1997年~2001年の4年間、精神分析家になるための訓練を受けました。日本に帰国してからは、同じくWhiteで訓練を受けた先生方と、京都精神分析心理療法研究所(KIPP)という組織を作り、精神分析的心理療法家の訓練を行ってきました。
創始者たちの中でも独自の対人関係論を確立したサリヴァンは、大きな影響を与えました。ここでは、サリヴァンの考えを、人格論、精神病理論、治療論に分けてご紹介します。
まず、サリヴァンの人格論ですが、彼は人間が体験する不快な状況を緊張という言葉で表し、その緊張を欲求緊張と不安緊張という二種類に分類しました。欲求緊張とは、食欲、性欲、睡眠欲など個体の欲求が阻止されたときに体験するものであり、一方で、不安緊張とは、対人関係の中で相手から優しさが得られないとき、それによって自尊感情が低められるときに生じるものです。サリヴァンによると、人間の精神衛生にとっては、欲求緊張よりも不安緊張の方がやっかいで、なぜなら不安緊張の解消には他者の協力が必要であり、その他者を人間はコントロールできないからです。
このやっかいな不安に対処するために、人間はさまざまな体験処理の方略を身につけるようになります。それをサリヴァンは安全保障操作と名づけました。代表的なものが、不快な体験から意識を遠ざける選択的非注意です。人間は、物心つくころから、様々な体験を通して、自己の表象、他者の表象を内面的に作り上げていきますが、選択的に非注意された体験は、体験として吸収されず、あるいは体験として歪められ、自己表象や他者表象を貧困化したり、歪めたりすることになります。サリヴァンが用いる用語として、good-me、bad-me、not-meがありますが、重要他者significant otherとの親密な体験はgood-meとして、不安な体験はbad-meとして、そして安全保障操作によって体験から排除されたものは、not-meとして自己表象を構成すると考えられます。not-meという概念は、自分ではない自分という矛盾をはらむ概念で難解ですが、対人関係学派のあいだでは、解離という概念との連続性で捉えられています。私は個人的に、このnot-meは、体験として吸収されないために、本来であれば発達するべき自己のある側面が、未発達のまま、可能性としてだけ残されている状態であると理解しています。
このあたりで、すでに彼の病理論が重なってきますが、不安を避けるために身につけた安全保障操作は、その後、成長とともに不要となり捨てられる、あるいはより適応的な対人関係様式に置き換えられていけばいいのですが、場合によっては、人格の中に定着し、発端となった状況と無関係に、使い続けられることになり、それが他者との親密な体験を阻害し、その人の生きづらさdifficulty of livingを作り出すとサリヴァンは考えます。サリヴァンは、体験が非適応的になる原因を、体験の三様式という加点からも説明しています。それは、①プロトタクシクス的、②パラタクシス的、③シンタクシス的と呼ぶもので、①は、時間的、論理的なつながりの構造を持たず、瞬間瞬間の感覚だけが流れ過ぎていく最も原初的な様式です。②は、徐々に前後のつながりができはじめ、時系列を基本に因果関係を含めて組織化される体験ですが、それは他者と共有されることがなく、個人的な体験としてとどまり続けるものです。最後の、③は、言語的に表現され、他者とコミュニケーションを通して共有されるレベルの体験様式です。サリヴァンによれば、重要他者との体験がパラタクシス的なレベルにとどまるほど、現実からの乖離や歪曲が起こり、それが精神病理的な体験を生むと考えています。
サリヴァンの治療論は、上記の病理論をちょうど裏返すように、組み立てられています。治療者は患者との面接の中で、患者との関係の中に巻き込まれる存在となります。巻き込まれつつ、観察する視点を捨てずに関わり続けることは、参与観察participant observerという言葉で表されています。面接の中で務めることは、患者の体験を丹念に聴き、共有しつつ、何が患者を不安にさせているのか、その不安の源を一緒に探索することです。サリヴァンはそのために、詳細な質問detailed inquiryという技法を推奨しています。体験の細部に目をやり、患者自身が気づいていない重要他者との体験の諸側面を吟味することによって、不安の根源に迫ろうとするというわけです。その際、サリヴァンが強調するのは、患者の不安が高まりすぎないように、また低まりすぎないように、不安勾配に配慮することです。
さて、その後の対人関係精神分析家たちは、サリヴァンの理論を下敷きにして、フロイトの理論とは異なる視点で、精神分析の実践と理論化を進めてきました。ここではフロイト派の精神分析と対置することで、対人関係精神分析の特徴のいくつかを要約してみたいと思います。
第一に、フロイトの無意識のモデルは考古学モデルとよばれ、抑圧によって精神内容が無意識に埋もれていると考えるのに対し、サリヴァンにとっての無意識は、強い不安を喚起する体験は選択的に非注意され意識から排除されるという、解離モデルに近いと理解されています。また、そうした解離は、家族集団内で「神秘化mystifyされる」ことで生じることを強調したエドガー・レベンソンや、解離された体験を体験として構成されない「未構成の体験」として概念化したドネル・スターンなど、多くの理論化が議論を深めています。
第二に、フロイトの精神分析では、患者は自由連想を行い、分析家は自由に漂う注意を持ってそれに耳を傾けるとしました。一方対人関係精神分析では、サリヴァンの技法である詳細な質問を技法の拠り所としています。質問をすることは、分析家が積極的に関与することであり、最終的には、患者の体験をシンタクシス的にすること、合意による確認を行うことを目指しています。
第三に、フロイトの精神分析では、治療者は無色透明な鏡になり、患者から転移を受ける存在でなければならないとするのに対し、対人関係論では、分析状況は二者によって構成されるものであり、治療者は一人の人間としてそこに存在し、様々な影響を患者に与えると認識しています。したがって話し合う内容は、患者の過去の対人関係、現在の対人関係における体験だけでなく、面接の場で起こっていること、そこに関わる両者の影響についても関心を払い吟味していきます。
第四に、フロイトの精神分析では、解釈が患者の変化を引き起こすと考えるのに対し、対人関係論では、関係の変化、古い関係性からの脱却、新しい関係性の生成が先であると考えます。そのための契機として、エナクトメントに対する注目があります。従来、精神分析では、患者が語る内容に重点を置いてきましたが、最近では面接のプロセスで生じてくる様々な出来事にも関心が向けられるようになりました。対人関係論では、このエナクトメントを、転移・逆転移が絡み合って生じるものと認識し、その理解と対応が、関係性の変化を生む契機になるとして注目しています。
当日は、以上のご説明に加え、京都府警と連携して行っているストーカー行為者のカウンセリングについて、私なりの工夫をお話しできればと思っています。