第10回研究会
(オンライン)
【テーマ】
ナルメフェンの飲酒量低減(減酒)効果のメカニズムを知ろう
2023年7月10日(月)
19:00~21:00
テーマ
ナルメフェンの飲酒量低減(減酒)効果のメカニズムを知ろう
【報告者】
宮田 久嗣先生
東京慈恵会医科大学 客員教授(精神医学)
医療法人社団光生会 平川病院 副院長
開催概要
●日程・開催時間
2023年7月10日(月) 19:00~21:00
※後半30分間は意見交換
●形式
オンライン開催 Zoom(※)で行います
※Zoom(ズーム)とは無料で簡単に使えるWebサービスです。事前にアプリのインストールが必要です。
PC、タブレット端末、スマートフォンでご視聴いただけます。ご視聴にはインターネット環境が必要です。
参加に伴う通信料は参加者様負担となります。
●事務局
条件反射制御法学会事務局
受講費について
(参加費用)
●会員
1,000円
●非会員
3,000円
(2023年度会員年会費)
●会員の方
2023年度年会費未払いの方は、お申込み時に年会費を併せてお支払いください。
会員参加費に加えて、2023年度年会費 5,000円
●非会員だが2023年度の会員になって参加する方
会員参加費に加えて、2023年度年会費 5,000円
※会員資格発生後は、学会誌の最新号と会員向けメールマガジンをお送りします。
(1)参加費はお支払い後、参加者様都合の場合、返金はできかねますので、ご了承ください。
(2)ご入金確認後、研究会開催3日前までには、お申し込み時のアドレスへ参加用URLを送信します。
お支払い方法
●郵便振替
自動返信メールの記載を必ずご確認ください。
●クレジットカード
申し込みフォームより必要事項を入力しお支払いください。
※決済プラットフォームはStripe(ストライプ)を使用しています。
申込み方法について
上記タブ「申し込みフォーム」からお申込みください。
※申込完了時に申し込みフォームに記載された「連絡先メールアドレス」に自動配信されます。
自動配信メールが届かない場合は、受付が完了していない場合がございます。問い合わせ先のアドレスに照会をお願いします。
※HP申し込みフォーム以外の郵送・電話・E-mail等による申し込みは受理できませんのでご注意ください。
募集期間
参加申込受付を終了しました。たくさんのお申し込み、ありがとうございました。
・クレジットカード決済の方:2023年7月6日(木)まで
注意事項
PCの問題、WEB接続環境が整っていない等の接続に関するサポートは行っていませんので、ご了承ください。
研究会についての問い合わせ先
下総精神医療センター 担当:寺内 〈受付時間:平日9:00~15:00〉
〒266-0007 千葉県千葉市緑区辺田町578番地
E-mail:crct.mugen@gmail.com 電話:043-291-1221(内線8328)
研究会当日の緊急連絡先
NPO法人アパリ 担当:尾田電話:090-3047-1573
参加申込受付を終了しました。
たくさんのお申し込み、ありがとうございました。
第10回研究会
「ナルメフェンの飲酒量低減(減酒)効果のメカニズムを知ろう」の紹介
今回の研究会でナルメフェンという薬剤を取り上げたのは、治療効果が発生するメカニズムにおいて、薬剤を使わない条件反射制御法と同一であるところが多いからである。
ナルメフェンは大塚製薬株式会社と H.ルンドベック A/S(本社:デンマーク、コペンハーゲン)が共同で開発した薬剤である。次の情報の対象がなぜアメリカであったかのかは忘れたが、ナルメフェンはアメリカの精神科医師や臨床心理士の間では不評であると数年前に大塚製薬の社員がやや嘆くように教えてくれたことがある。大塚製薬の社員がその薬剤の評判がアメリカで不良であることを嘆いた理由の1つは、日本で良好な売れ行きが期待できないことであろう。
私はナルメフェンがアメリカで不評であることにまずは驚いたが、その後、納得し、そしてやはり嘆いた、このままでは条件反射制御法が普及しないではないかと。アルコール症に対応する精神科医師や心理士の多くはアメリカでもアルコール症が成立するメカニズムを誤解しているのだと嘆いた。
制御を欠いて飲酒する状態が成立するメカニズムとして、必ず把握しておかなければならない現象は、アルコールを含有した飲料を探し、入手し、アルコール飲料を容器に注ぎ、その容器を手に取り、口唇まで持って行き、飲用し、つまり、容器を傾け、口腔内に注ぎ、嚥下し、アルコールが消化器から吸収され、血管を経由して脳に届き、アルコールの薬理作用の内、生理的報酬と同様の効果である強化効果が生じ、この効果の発生までの神経活動が再現性を高めることである。アルコール飲料の探索から飲用、そして、アルコールの薬理作用がもつ強化効果の発生が反復されることにより、環境及び体内からの刺激に対する反応が連続して一連の反射連鎖が成立し、その作動性が高まり、飲酒行動が生じやすくなるのである。
精神科医師や心理士の多くは「いやいや、アルコール症にはいろいろな原因がありますよ」と言いそうである。その内容は正しいが、ほぼ無意味である。
反復する行動を生じさせる問題の根幹と2次的にあるいは偶発的に合併した要素を分けて理解しなければならない。
アルコール症が発生する問題の根幹は、飲酒行動を再現する反射連鎖が強い作動性をもった状態である。その周辺に、2次的な問題あるいは偶発的に合併した問題がある。その理解に基づいて対応することが、アルコール症の完治につながる。
アルコール症の根幹に焦点を当ててはたらきかけるのがナルメフェンであり、条件反射制御法である。
今回、ご講演をくださる宮田先生は抄録の中で、アルコールの血中濃度が低下してきた際の飲酒者に生じる状態の重要性を指摘して、ナルメフェンの薬理作用についてお教えくださったと私は理解している。
研究会当日は、飲酒者が飲酒を我慢し、アルコールの血中濃度が低下している苦しい時期を自力で、あるいは薬剤の力を借りて乗り越え、一旦は安定した段階に入った後にも、飲酒欲求が生じ、飲酒してしまう現象があることに関してもご見解をいただこうと思っている。
2023年5月
条件反射制御法学会
理事長 平井愼二
テーマ:ナルメフェンの飲酒量低減(減酒)効果のメカニズムを知ろう
【報告者】
宮田 久嗣
東京慈恵会医科大学 客員教授(精神医学)
医療法人社団光生会 平川病院 副院長
ナルメフェン(商品名セリンクロ)は、飲酒欲求を低減させることによって飲酒量を減らします。このため、飲酒量低減薬として減酒治療に用いられます。それでは、ナルメフェンはどのようにして飲酒欲求を減らすのでしょうか。その作用を知るためには、まず、ヒトの飲酒欲求のメカニズムを知る必要があります。
1.アルコールの急性効果(報酬効果)とナルメフェンの効果
われわれが飲酒すると、アルコールは脳内報酬系を刺激して報酬効果(快い効果)を発揮します。このため、この報酬効果をもっと体験したいという飲酒欲求が生じます。アルコールの報酬効果のメカニズムは複雑で、アルコールによる複数の神経系(グルタミン酸神経系、オピオイド神経系、GABA神経系)への作用のほか、大脳皮質を抑制することによる上位中枢の脱抑制の快感も関係します。その中で重要な作用は、アルコールのオピオイドμ受容体刺激作用とされています。ナルメフェンはこのオピオイドμ受容体刺激作用を遮断します。したがって、ナルメフェンはアルコールによる報酬効果の発現をブロックすることから、「ナルメフェンを服用してから飲酒すると、いつもほど楽しめない」、「お酒を遠く感じる」などの体験になります。しかし、これでは、「お酒を飲んでも楽しめない」というだけで、飲酒欲求の低減にはなりませんね。
2.アルコールの慢性効果(飲酒欲求)とナルメフェンの効果
それでは、飲酒欲求はどのように生じるのでしょうか。それは、以下のように考えられています。アルコール依存症者は、いつも飲酒しているので、脳内報酬系はアルコールによって絶えず刺激されています。そうなると生体には元の状態に戻ろうとするホメオスターシス(恒常性)の機能がありますので、脳内報酬系は代償性の機能低下を起こします。それでも、いつも飲酒していると、アルコールの報酬系刺激作用と、脳内報酬系の代償性機能低下が拮抗してバランスが取れています。しかし、断酒したり、飲酒してから時間がたってアルコールの血中濃度が低下してくると、アルコールの報酬系刺激作用よりも報酬系の代償性機能低下の方が優勢になります。つまり、報酬系は機能低下の状態となり、これが不快感を生じ、アルコール依存症患者の強い飲酒欲求(渇望)の原因となるのです。このメカニズムにはオピオイドκ受容体が関係しているとされます。ナルメフェンは、オピオイドκ受容体を部分的に遮断することから報酬系の機能低下を回復させる作用があります。つまり、報酬系機能低下(不快感)による飲酒欲求(渇望)を低減させるのです。
3.ナルメフェンの飲酒欲求(渇望)抑制のメカニズム
以上のことから、ナルメフェンは2つの作用によって飲酒欲求を低減させていることがわかります。まず、脳内報酬系のオピオイドμ受容体遮断作用を介してアルコールの報酬効果の発現(アルコールの急性効果)を抑制します。この作用は、連続飲酒による報酬系の代償性機能低下を減弱させ。飲酒欲求(渇望)の形成過程を阻止します。さらに、ナルメフェンは、オピオイドκ受容体を部分的に遮断することで、連続飲酒の結果生じた報酬系の機能低下(アルコールの慢性効果)を回復させ、飲酒欲求(渇望)を減弱させます。
4.ナルメフェンを服用した患者さんはどのよう感じているのでしょうか
このようなナルメフェンの飲酒欲求への効果を、アルコール依存症の患者さんたちはどのように感じているのでしょうか。実は、アルコール依存症の程度によって大きく2つのグループに分けられます。
・アルコール依存症が軽度、または、それ以下の方
アルコール依存症が軽度、または、それ以下の方では、アルコールの慢性効果(脳内報酬系の代償性機能低下)はまだはっきりとしていなので、アルコールの急性効果(報酬系刺激効果)の対するナルメフェンの作用が主体となります。したがって、患者さん達は、ナルメフェン服用後のアルコールの効果を「飲んでものれない」、「飲んでも楽しめない」、「お酒を遠く感じる」などと表現されます。
・アルコール依存症が重度、または、それ以上の方
連続飲酒によるアルコールの慢性効果(報酬系の代償性機能低下)がはっきりとしてくるので、これに対するナルメフェンの作用が主体となります。したがって、患者さんは、「飲酒していて、気がついたららコップにお酒が残っていた」、「それ以上の飲まなくてもいいやという気持ちになっていた」、「気がついたら、食事をしていた(アルコール依存症の患者さんは、飲み始めたらほとんど食事はとらないのが普通です)」。
5.さいごに
もちろん、薬物療法だけではなくて、動機づけ面接や患者さんの自己効力感をサポートする心理社会的治療が大切ですが、上述したようなナルメフェンの薬理作用の理解が、先生方のアルコール依存症治療のうえで役に立てればと思います。