第4回研究会
(オンライン)

【テーマ】
海獣類における問題行動への対応
2022年7月11日(月)
19:00~21:00

テーマ

海獣類における問題行動への対応

開催概要

●日程・開催時間
2022年7月11日(月) 19:00~21:00
※後半30分間は意見交換

受講費について

(参加費用)
●会員
1,000円
●非会員
3,000円

(2022年度会員年会費)
●会員の方
2022年度年会費未払いの方は、お申込み時に年会費を併せてお支払いください。
会員参加費に加えて、2022年度年会費 5,000円

●非会員だが2022年度の会員になって参加する方
会員参加費に加えて、2022年度年会費 5,000円
※会員資格発生後は、学会誌の最新号と会員向けメールマガジンをお送りします。

(1)参加費はお支払い後、参加者様都合の場合、返金はできかねますので、ご了承ください。
(2)ご入金確認後、研究会開催3日前までには、お申し込み時のアドレスへ参加用URLを送信します。

お支払い方法
●郵便振替
自動返信メールの記載を必ずご確認ください。

●クレジットカード
申し込みフォームより必要事項を入力しお支払いください。
※決済プラットフォームはStripe(ストライプ)を使用しています。

申込み方法について

上記タブ「申し込みフォーム」からお申込みください。
※申込完了時に申し込みフォームに記載された「連絡先メールアドレス」に自動配信されます。
自動配信メールが届かない場合は、受付が完了していない場合がございます。問い合わせ先のアドレスに照会をお願いします。
※HP申し込みフォーム以外の郵送・電話・E-mail等による申し込みは受理できませんのでご注意ください。

募集期間

~2022年6月27日(月)まで

注意事項

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研究会についての問い合わせ先

下総精神医療センター  担当:寺内 〈受付時間:平日9:00~15:00〉
〒266-0007 千葉県千葉市緑区辺田町578番地
E-mail:crct.mugen@gmail.com 電話:043-291-1221(内線8328)

研究会当日の緊急連絡先

NPO法人アパリ 担当:尾田
電話:090-3047-1573

第4回研究会は申込受付を終了しました。
多数のご応募をありがとうございました。

第4回研究会「海獣類の問題行動への対応」の紹介

飲酒、薬物乱用、万引き、痴漢行為、ストーカー行為、放火等の反復する行動は、やめなければいけないとわかっているけれど、やめられない疾病状態で生じる。

その状態の、「やめなければいけないとわかっている」という作用を生じて、その判断に基づいて行動をやめようとするのは、ヒトがもつ2つの中枢の内、パヴロフが第二信号系と名付けた中枢である。第二信号系は思考して未来に社会的成功行動を創造しようとする。第二信号系はヒトだけがもち、ヒト以外の動物はもたない。

一方、冒頭の状態の「やめられない」という作用を生じて、特定の行動を正確に強く進めるのは、ヒトがもつ2つの中枢の内、パヴロフが第一信号系と名付けた中枢である。第一信号系は反射で過去の生理的成功行動を再現する。第一信号系はヒトとヒト以外の動物が共通してもつ。

つまり、ヒトは動物的な第一信号系、並びに人間を特別な存在にしている第二信号系の両方をもつ。特定の行動が社会生活から逸脱するほどに反復するのは、その行動に関して、第二信号系が思考して行動する作用よりも、第一信号系が反射で行動を進める作用が強くなっているからである。

そのような疾病状態に対して条件反射制御法は第一信号系を標的にして、後天的な反射を弱め、第二信号系がやめなければいけないとわかれば、やめられる状態に戻す技法である。

私は条件反射制御法を患者さんに説明するとき、上記を伝え、決め台詞として次のように言う。

「鴨川シーワールドに行ったことがありますか。シャチをジャンプさせたり、頭の上に人が乗って穏やかに泳がせたりするでしょ。あれはトレーナーが、動作で刺激を送って、シャチを操っているのです。あなたの第一信号系は、暴れるシャチの脳のようになっていて、手がつけられません。その第一信号系を、あなたと私の第二信号系で調教しきるのです。」

条件反射制御法を開発して間もないころから、私はこの決め台詞を使い始めた。鴨川シーワールド(水族館)でシャチを見たからである。後に、シャチの調教にかかわっている方から話を聞きたいと思い、連絡したところ、応じてくださったのが勝俣氏であった。勝俣氏は、2013年4月に下総精神医療センターで、海獣類の調教について楽しい講義をしてくださった。

それから9年を経て、勝俣氏は当会の第4回研究会でお話しくださる。

勝俣氏の抄録を読み、次の理由でもこの研究会は重要なものになると考えた。

抄録の冒頭にはスキナーが登場した。
行動を変化させる技法を構成するとき、スキナーを抜きには語れないと考える研究者や臨床家は多いであろう。条件反射制御法に関しては、おそらくは多くの研究者や臨床家の意見と、次のように異なる意味合いで重要である。

スキナーが活躍した当時の世界には東西間に摩擦があった。その情勢が影響してか否かは不明であるが、アメリカのスキナーはロシアのパヴロフの理論を引き継がなかった。

まずは、スキナーはヒトの中枢作用を示す際に、第一信号系と第二信号系の存在と各作用の差異を明確にしなかった。このことが現在の治療技法にも刑事司法体系にも悪影響をもたらした。ヒトの中枢が1つのように捉える誤りにより、行動を変化させる技法においてはたらきかけの焦点が不明になること、ならびに、反復傾向のある違法行為に対する社会の態勢を、厳罰主義か治療主義かのいずれかを選択するような考え方を生むことなどの混乱を生じさせている。

また、スキナーは反射の反応が動作の領域に表現される反射の成立をオペラント条件付けと呼んだ。行動は、環境への反応性の基盤となる気分、身体状態を整えて反応の表出を可能にする自律神経状態、そして反応の表出である動作が生じて成立する。その全てが神経活動で生じるのであり、従って、全て反射で生じる。しかし、スキナーは動作の領域における反射を特別なものとして取り上げて、オペラント条件付けと呼ぶ誤りを犯した。その誤りは、純粋な学問上の他意のない誤りであったかもしれない。しかし、次のように重大な結果に至ったと私は考える。

パヴロフは、条件反射に端を発して行動と進化に関する研究を行い、体系的な理論をもつ信号系学説を唱えた。それにもかかわらず、スキナーがオペラント条件づけという特別な反射があるかのように主張したために、パヴロフの条件付けはレスポンデント条件付けと呼ばれる分類になった。それは古典的条件付けとも呼ばれる。その名称は基本的であると理解されるかも知れないが、ただ古い理論に留まっていると理解されることもあろう。いずれにせよ、過小評価を受けるようになった。私が中学生のときに、パヴロフは梅干しをみたら唾液が出ることを発見した研究者程度の知識を得た。精神科医師になってからはパヴロフに関して聞くことはなく、長い間、中学生のときに得た知識のままだった。自らパヴロフの本を開いて、本当のことを知ったのは精神科医師になって22年目のことであった。

精神に関する理解は、パヴロフによるものは相当に高まっていたが、同時期にはフロイトが立ちはだかり、また、後にはスキナーの理論が広まり、世界は再び混乱の方向に向かった。

私の知識では、フロイトは無意識を発見し、その作用は、意識できないところで状況を評価し、計画し、予測して行動を司るものとして理解しているようである。また、スキナーは行動に成功したら、その行動が強化され、発現頻度が増えるとしているが、その作用がヒトの中枢作用の中でどのような位置づけになるのかは、示されていないようである。そのままで、フロイトもスキナーも行動を変化させる領域で現在でも広く受け入れられている。また、反復する行動は依存と呼ばれ、認知、記憶、動機、意思などの言葉で、評価やはたらきかけが不思議な言い回しで語られるので、不明であり、科学から外れた印象を受ける。

一方、条件反射制御法は冒頭に示したように、環境からのさまざまな刺激に対して過剰に作動する反射を、刺激し、作動させ、しかし、生理的報酬は生じないことにより抑制することを反復して、作動性を消す技法である。その技法が基盤とする信号系学説は、反復する行動に援助的に対応する各施設間の連携に関しては、条件反射制御法を提供する精神科医療施設等と、人間関係や規則的生活に関する未熟な反射を成長させるために訓練を提供する施設等の連携を導く。また、その基盤理論は、刑事司法体系は第二信号系に、治療体系は第一信号系に対応する効果を持つことから、刑罰と援助が補い合う∞連携を支えるものになる。つまり、条件反射制御法は欲求を消す強い効果をもち、その基盤理論は反復する行動に対応する関係機関の連携を成立させるのであるが、スキナーの理論とは合致しないのである。

勝俣氏の抄録の冒頭でスキナーの名が挙げられているが、その抄録の後半では動物とヒトとの差異が明確に記されている。従って、おそらくは鴨川シーワールドでのシャチ等海獣類への対応においてはスキナーの理論から逸脱した、つまり、正しい対応が加えられて、調教がなされ始めているだろうと推察した。

勝俣氏によるご報告とその後の意見交換において、パヴロフとスキナーの差異が明確にされ、ヒトが行動する本当のメカニズムに基づいて、行動を変更する技法について議論が展開されることが期待される。

テーマ:海獣類における問題行動への対応

報告者:勝俣 浩(鴨川シーワールド)

水族館を中心に行われてきた動物トレーニングの原理は、バラス・スキナーが体系化した行動分析学を基礎としており、ショーのほか、健康管理や治療、飼育個体を利用した調査研究にも役立っている。イルカショーの公開は、1938年に建設されたアメリカのマリンスタジオが最初とされている。マリンスタジオのショーは人気を博し、行動観察にも適したその大水槽が研究者の関心を引き付け、1940年代半ばにはイルカの社会行動に関する観察がおこなわれるようになった。その後1970年代までに、同様規模の水族館や米国海軍でもイルカを用いた研究が数多くおこなわれ、音声コミュニケーションやエコロケーション(反響定位)などの鳴音や聴覚、動物心理学的な認知・学習機構などに関するイルカ類の能力が明らかにされた。この間、ショーおよび調査・研究のためのイルカのトレーニングを通じて、行動分析学をより実践的な動物のトレーニング方法としてまとめたのがカレン・プライアである。プライアはオペラント条件付けの中でも特に正の強化を用いたトレーニングを通じて、動物から前向きな態度を引き出すことにより、動物との間により良好な関係が築けることを説いた。この手法は、今では世界中の動物トレーナーによって実践されているばかりではなく、企業経営における管理にも広く応用されている。

飼育下の動物にも繰り返し発現する問題行動が認められており、その中で代表的なものが攻撃行動と常同行動である。攻撃行動は人(飼育員、観覧者双方を含む)による意図しない強化(不安や欲求不満を感じさせる刺激の提示)により条件付けられていることが多いので、条件付により発現頻度を低減させることが可能であるが、常同行動は動物が自ら強化した行動が多く、条件付けの原理を応用して低減/消去することは困難である。イルカ類に最も多く発現する常同行動は食べたエサを吐き戻して再度飲み込むことを繰り返す行動で、野生と比べて安全で単調な環境の弊害とされている。これにより極端な体重の減少や健康上の異常が認められる場合、飽食給餌をおこなうことで行動を低減させて健康を維持することもあるが、大半の事例では動物の健康状態は良好であるので、エンリッチメント(遊具の利用、飼育スケジュールの多様化、トレーニング課題の複雑化など)により費やす時間を増やすことで対応している。なお、イルカ類ではプールを周回する単調遊泳を常同行動と指摘されることがあるが、半球睡眠をおこなうイルカ類は泳ぎながら睡眠(休息)を取るので、本来の行動から逸脱した異常行動とされているホッキョクグマや大型ネコ科動物に見られるペーシング(同じ場所を目的なく行き来する異常行動)との区別は付けにくい。そもそも紹介した問題行動は人間(トレーナー)にとって“問題”なのであって、イルカやアシカにとって「やめたいけどやめられない」逸脱した異常行動ではない。ショーにおいてトレーナーの元から勝手に離れてしまう行動も、トレーナーや観客視点からは問題行動となるが、動物は困ったトレーナーの反応により強化されることはあっても、それにより健康を害することは一切ない。どちらかというと観客のクレームを心配してなんとかショーを成り立たせようとしながらも、動物からはまったく協力が得られないダブルバインド状態のトレーナーのほうが精神的な負担は大きい。

飼育下のイルカは展示を通じて種の生物学的情報だけでなく、海洋生態系における多くの生物のつながりとその多様性、そしてなにより生命にふれる感覚を伝えるという特別な役割を持つ。もちろんこれは人間(飼育者)の勝手な押し付けでありイルカに自覚があるわけではないので、私たち飼育にたずさわるものは、協力してもらうイルカたちの終生を意義のあるものにする事を常に目指さなければならない。飼育下での生活は日々の変化が少なく、刺激の不足は常同行動を引き起こすため飼育環境の多様化は最も重要な課題となる。この課題への対応の中心となるのがVariable Ratio(VR、変比率強化スケジュール)とReinforcement Variety(RV、強化子の多様性)、そしてLeast Reinforcing Scenario(LRS)である。多様な強化子がトレーナーからイルカに提供されることで、トレーナー自身がイルカにとって一番の強化子となる。