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条件反射制御法の提供にあたって、外来のみをもつ精神科クリニックや心理士が営むカウンセリングルーム、自助的な回復支援施設は、その技法を構成する治療作業の選択および手順の調整、ならびに入院病棟をもつ施設との連携により、効果的に、かつ安全に実施することが可能にあり、何らかの行動に囚われたヒトを通常の平安な生活に引き戻し、その状態を保つことに大きく貢献できる。
社会内で容易に開始できる治療作業、ならびに問題行動を促進する刺激を与える治療作業を社会内で行う場合の準備、さらに入院病棟をもつ施設との連携に関して解説する。
外来通院者の中には、入院に準じる形で、毎日のように来院して集中的に取り組む人もいるが、大抵は生活しながらCRCTに取り組むことになる。
アルコールの問題では、断酒できていない状態でCRCTを開始する場合が殆どで、第2ステージに進むまでに1年以上かかるケースもある。CRCTを進行することに拘り過ぎず、その人の健康状態や生活の改善をみていくことが、外来でCRCTを続けていく上では大切である。
性犯罪や盗癖では、疑似作業で用いている観察票を日常生活でも活用してもらう。
講義では、社会生活を続けながら、安全にCRCTに取り組むために、私たちが実践している工夫を紹介する。
この想像ステージでは、標的の行動を司る反射連鎖の全体を再現して、多くのパターンを対象にして、さまざまな反射連鎖全体の作動性を抑制する。
疑似ステージでは第一信号系に与える刺激は限定されていたが、想像ステージで第一信号系に与える刺激は、さまざまなパターンにおける標的行動の中の長時間にわたるより広い空間からの刺激を網羅したものであり、これが想像の長所である。
一方で短所は、想像による刺激がまずは第二信号系で入れる刺激に対して生じた反応で、その後の反射を刺激することから、治療が進むと反射が低減した状態になることから、標的行動を司る反射連鎖を刺激する作用が弱くなり、反射が温存されることである。
その温存を防ぐために、想像の準備として標的行動を100~400字で10~20話書き出しておき、それを読んで想像する。
疑似においては、実際に存在する物質を刺激にするので刺激は薄れず、また、刺激が限定されていることから、疑似と想像は補完的である。
また、このステージで、良かったこと辛かったことを1話読み、20単語を書き出すことを開始する。
規制薬物乱用に対する援助側と取締側の職員は、身体に対する医学およびそれに基づく医療と同様に、細胞数の少ない小さな生命体から進化して現在のヒトの形質に至ったことに基づいて行動のメカニズムを把握し、対応するはたらきかけを選択するべきである。そうすることで、規制薬物乱用に対する各機関が自機関の役割を発揮し、他機関の機能を尊重して活用する連携が成立する。
援助側の職員は対象者の規制薬物乱用を通報することなく受け入れ、規制薬物乱用を司る過剰な反射を抑制する治療と社会生活を送る上で不足した反射を強化する訓練を提供し、また対象者が規制薬物乱用の回避に努めるよう法の抑止力を意識させる態勢をもつべきである。
国民には規制薬物乱用を生じさせる疾病に罹患したならば治療や訓練を受ける義務を求め、取締側の職員は規制薬物乱用を検挙し、その行為の成立までの経過において、行為と自由な思考の同時性に着目し、責任能力のある部分には刑罰と教育で対応することにより、必ず、検挙した規制薬物乱用には刑罰を与える態勢をもち、その上で、規制薬物乱用の成立が主に疾病によるものであれば治療と訓練を強制するべきである。
このステージでは、通常、治療の標的とする行動を司る反射連鎖における最終部分の行動を、疑似物品、疑似環境を用いて、実際に操作して、あるいは動いて再現する。あるいは、標的の行動のいくつかの経過を早い段階から辿るように連続した5枚程度の描画に患者が描き、それらを次々に見ることで、標的の行動を再現する。
これらの作業が条件反射制御法の疑似であり、目的は、標的行動の最終部分に限定された刺激を、あるいは、標的行動のより長い経過ではあるが不連続の限定された刺激を、標的行動を司った反射連鎖に意図的に入れ、反応を生じさせ、しかし、生理的報酬はない現象を作ることにより、抑制の効果を生じさせることである。
これらの作業を反復し、抑制を重ねることにより、標的行動を司った反射連鎖の最終部分の作動性、あるいは標的行動を司った反射連鎖のいくつかの部分の作動性を、低減させるのである。
疑似を開始した当初は反応が激しく反応が生じるが、反復により急速に抑制が進む。患者において欲求あるいは衝動という第一信号系の作用とその低減を、患者と治療者の第二信号系が、計画的に生じさせた反応、ならびに、その反応の低減を通して、観察できる。
また、このステージで辛かった体験の書き出しを100話行う。
疑似とおまじないを成長させる作業と辛かった体験を書き出す作業は、相乗効果が期待できる。
辛かった体験を書き出す作業は、ストレスを患者に与え、第一信号系は生きる方向に強く作動し、疑似において、強く反応する。しかし、生理的報酬はないので、抑制が進む。
特定の行動が社会生活から逸脱する程度に反復する病態にあるヒトの一部は、環境からの刺激に対して過敏で行動を強く駆動する反射が過去の体験により設定されている。
なぜならば、過酷な体験は、第一信号系にとっては死への圧力であり、また、日常生活からの刺激を受ける中で過酷な体験の刺激が生じ、それからの逃走行動を司る神経活動が反応として生じ、それらを経過して生き残り、つまり、防御に成功し、従って生理的報酬を生じる現象である。その現象において、生理的報酬の効果により、日常生活からの刺激は、過酷な体験への反応、つまり生きる方向への行動を生じさせる反射を強化する。その刺激と反応の強化の反復が、未成年期に過酷な体験が反復したヒトに生じたのでありので、そのようなヒトにおいては、日常生活からの刺激に対して、容易に生きる方向への行動、すなわち、過去に生理的報酬を得て成立した反射連鎖により司られる行動が容易に生じる。つまり、PTSD、病的窃盗、摂食障害、性嗜好障害、物質使用障害、ヒューマンエラーを反復する状態に陥り易い。
その駆動性を正常化させるために、良かったことを100話書き出し、辛かったことを100話書き出し、それらを1話読んで、出てきた人、物、景色、動き、声、音を順序よく20単語書き出す作業を延々と続ける。
この作業は、講義2で紹介した第一信号系の特性の内の、「2.過酷な体験をもつヒトの第一信号系は過敏で強い駆動性をもつ。」に対応するものである。
ヒトは、思考して行動するという漠然とした理解があるが、それを見直すべきである。正しくは、ヒトは行動の中枢を2つもち、それらは、反射で過去の生理的成功行動を再現する第一信号系、並びに、思考で未来の社会的成功行動を創造する第二信号系である。
生物は自己保存と遺伝の現象で特徴付けられ、それらは防御、栄養摂取(摂食)、生殖で実現される。生物は植物と動物に分かれ、動物になった群は神経活動で行動する。神経活動は全て、環境からの刺激、それに対する中枢作用、生じる反応が要素となって構成される反射の一部である。環境に対する反射の連続および集合が動物の行動となる。
現生動物の第一信号系は、生きることに成功した行動を司った反射の再現性上昇、生きることに失敗した行動を司った反射の再現性低下という特性をもつ。なぜならば、それらの傾向をもった個体が長く生き、多くの子孫を残したからである。その結果、それらの傾向はときの経過とともに強まり、第一信号系は、生きることに成功した場合に生理的報酬と呼ぶべき効果を生じるようになった。生理的報酬は、防御、摂食、生殖に成功した場合にそれらの成功に至った行動を司った反射を強化し、それらに成功した行動を効果的に獲得するようになった。
第二信号系は、第一信号系のみで行動していた動物の内、二足歩行をはじめた群が、目前で手による操作において、多くの刺激を受けて反応が生じ、失敗の後に成功に至り、生理的報酬が生じる現象を頻回に反復することを、世代を越えて続けた結果、生じた中枢である。現在では、多くの刺激を受けた場合にその複数の刺激を評価し、成功に至る道筋を計画し、結果を予測し、決断して、未来の行動を司ろうとする中枢になった。その作用をもつ第二信号系を、第一信号系に加えてもつようになった群がヒトである。
ヒトにおいては、刺激に対して2つの信号系が作用し、いずれかの優勢な側の系による行動が表出する。
ヒトにおいて生理的報酬を生じるのは防御、摂食、生殖の本能行動、ならびに、生後に強化されたアルコールや薬物等の物質を摂取する行動、業務において成功した行動などである。
それらの行動が無意識的に生じ、反復する状態が、それらの行動に関して行動制御能力の障害された状態であり、ときにその状態にヒトは陥る。
覚醒剤摂取あるいは飲酒を司る反射連鎖は後天的な反射が本流である。それらの行動を司る反射連鎖の過剰な作動性に対しては、疑似や想像において、単純に行動の再現を最終動作まで行うことを反復すると、抑制が進む。
万引き、痴漢、ストーカー行為などを司る反射連鎖は先天的な反射が本流であり、本能行動の過剰な作動である。先天的な反射は進化的に変化するのであり、1代で変化は明らかにならず、つまり、治療的働きかけが可能な期間では変化しない。従って、本能行動の過剰な作動に対しては、先天的な反射が多く混在する部分での終了は避け、後天的な反射が多く混在する部分で明らかな失敗の反応を生じさせる調整を行い、調整した現象を反復することで抑制が効果的に進む。
この調整は、講義2で紹介した第一信号系の特性の内の、「1.生後に獲得した後天的な反射は変化しやすいが、遺伝子に組み込まれた先天的な反射は臨床的には変化しない。」に対応するものである。
条件反射制御法の第1ステージは、治療の標的とする行動に関連する言葉と簡単な動作を合わせたおまじないのようなもの(以後、おまじないとも呼ぶ)を、時間間隔は20分以上で、いろいろな場所で、目を開けて、200回以上行う。
そのおまじないを反復していると、それらは制御刺激に成長し、次の効果が期待できる。
1.標的の行動に対する欲求が生じたときに、おまじないをすれば、欲求が消える。
2.標的の行動に対する欲求が生じ難くなる。
3.他の行動を生じさせる衝動が生じても、標的の行動に対して成長させたおまじないをすれば、他の行動への衝動が消える。
おまじないはその中に標的行動に関連する言葉を含むので、おまじないをすることにより標的行動を司る反射連鎖を僅かに刺激し、反応が生じるが、生理的報酬はないので、おまじないの後の反射連鎖は抑制を受ける。この現象を反復することにより、おまじないは、標的行動の反射連鎖の作動をとめる刺激になる。
この第1ステージで良かった体験の書き出しを100話行う。
おまじないを成長させる作業と良かった体験を書き出す作業は、相乗効果を生じる。
おまじないを開始したばかりのときから、おまじないをした後に良かったことのかきだしをするので、おまじないの後に、平安な第一信号系になることを促す。また、おまじないの後には良かったことを思い出しやすくなる。
条件反射制御法は第一信号系に作用して、反復する行動を生じさせる駆動性と方向性を司る反射連鎖を焦点的に抑制する。
ステージは制御刺激ステージ、疑似ステージ、想像ステージを通常は当初の数ヶ月で行い、最終の維持ステージを一生行う。そのステージの進行と同時に、過去の体験の書き出しと読み返しを、効果が生じやすいように各ステージの特徴に合わせて行う。
上記の構成は、治療において逸脱した行動や苦悩が生じる可能性がある疾病状態に対しても、それらが生じ難い流れをもつ構成になっており、それらが仮に生じても消せる方法を技法の冒頭で修得するので、安全に治療を進められる。
環境からのさまざまな刺激に、第一信号系と第二信号系が作用した結果の行動が、ヒトの社会に適合するものであれば、社会に適応する。第一信号系による行動が、第二信号系の望む行動に合致していれば、あるいは近いものであれば、適切な行動が生じ易く、そうでなければ違和感や苦悩がある。特定の行動が反復するヒトに対しては次のようにさまざまなはたらきかけを準備しておくべきである。
第一信号系において過剰に作動する反射に対しては、条件反射制御法がそれを正常に戻す。
第一信号系において作動性が不足している反射に対しては、生活訓練でそれらの反射を成長させる。
第二信号系において社会規範等に関する知識がない者にはそれを教えるために、教育する。
第二信号系において社会規範等に抵抗する者には、刑事司法体系は刑罰を与える態勢を見せ、その事実を発見すれば実行する。刑事司法体系には、今後、治療と訓練を強制する制度が期待される。
逸脱した行動を反復する者には、その者がもつ要素に応じたはたらきかけを行うことが対応であり、効果を生じる。単一の機関では対応できないことがあるので、対象者を評価し、応じたはたらきかけを提供するために、関係機関が連携するべきである。
臨床での技法の構成において留意するべき第一信号系の特性は次の3つである。
1.生後に獲得した後天的な反射は変化しやすいが、遺伝子に組み込まれた先天的な反射は臨床的には変化しない。
2.過酷な体験をもつヒトの第一信号系は過敏で強い駆動性をもつ。
3.一時期頻回に作動して生理的行動に成功した反射連鎖の作動性は、治療や環境の変化で抑制されても、放置されれば回復する。
上記の全てに対応するように条件反射制御法は構成されている。
想像ステージまでで修得した、制御刺激、疑似、想像を頻度を低くして継続する。体験を1話読んで20単語書き出すことも継続する。標的行動が再発することを予防する作業である。
入院中に継続する形を整え、社会内でも継続されるようこのステージでは治療者は患者を支える。
この維持ステージでの作業は、講義2で紹介した第一信号系の特性の内の、「3.一時期頻回に作動して生理的行動に成功した反射連鎖の作動性は、治療や環境の変化で抑制されても、放置されれば回復する。」に対応するものである。