ヒトは、思考して行動するという漠然とした理解があるが、それを見直すべきである。正しくは、ヒトは行動の中枢を2つもち、それらは、反射で過去の生理的成功行動を再現する第一信号系、並びに、思考で未来の社会的成功行動を創造する第二信号系である。
生物は自己保存と遺伝の現象で特徴付けられ、それらは防御、栄養摂取(摂食)、生殖で実現される。生物は植物と動物に分かれ、動物になった群は神経活動で行動する。神経活動は全て、環境からの刺激、それに対する中枢作用、生じる反応が要素となって構成される反射の一部である。環境に対する反射の連続および集合が動物の行動となる。
現生動物の第一信号系は、生きることに成功した行動を司った反射の再現性上昇、生きることに失敗した行動を司った反射の再現性低下という特性をもつ。なぜならば、それらの傾向をもった個体が長く生き、多くの子孫を残したからである。その結果、それらの傾向はときの経過とともに強まり、第一信号系は、生きることに成功した場合に生理的報酬と呼ぶべき効果を生じるようになった。生理的報酬は、防御、摂食、生殖に成功した場合にそれらの成功に至った行動を司った反射を強化し、それらに成功した行動を効果的に獲得するようになった。
第二信号系は、第一信号系のみで行動していた動物の内、二足歩行をはじめた群が、目前で手による操作において、多くの刺激を受けて反応が生じ、失敗の後に成功に至り、生理的報酬が生じる現象を頻回に反復することを、世代を越えて続けた結果、生じた中枢である。現在では、多くの刺激を受けた場合にその複数の刺激を評価し、成功に至る道筋を計画し、結果を予測し、決断して、未来の行動を司ろうとする中枢になった。その作用をもつ第二信号系を、第一信号系に加えてもつようになった群がヒトである。
ヒトにおいては、刺激に対して2つの信号系が作用し、いずれかの優勢な側の系による行動が表出する。
ヒトにおいて生理的報酬を生じるのは防御、摂食、生殖の本能行動、ならびに、生後に強化されたアルコールや薬物等の物質を摂取する行動、業務において成功した行動などである。
それらの行動が無意識的に生じ、反復する状態が、それらの行動に関して行動制御能力の障害された状態であり、ときにその状態にヒトは陥る。