●ホームページ
●導入までの経緯
私(平井)は下総精神医療センターの反復行動に対応する部門で1989年4月から働いています。当時はその部門が対応する患者のほとんどが規制薬物乱用者でした。取締官に通報すれば検挙されるはずの規制薬物乱用を通報せず、それでよいのかと不完全な思いをもちながら、診療を優先していました。
覚醒剤を使い続けて痩せてしまい、幻覚妄想状態に陥って入院してきた患者に対して、手厚い看護を伴う診療において精密な生産工程を辿って作られた抗精神病薬等を使って、つまり膨大な労力と莫大な費用をかけて対応し、患者の身体を元気にして、幻覚妄想を治しました。正常に動けて話せるようになった後は、反復する行動に効くと言われていた治療を提供しました。しかし、退院後、数ヶ月して、再び、覚醒剤を使って入院してくることは少なくありませんでした。
そのようなことを何回か繰り返したときに、私は次のように感じました。
「親を騙して金をとり、売人に金を渡して覚せい剤を入手し、それを使って精神病になった者を、私は、精神科医療を使って元気にして、再び親をだまし、非合法組織に金を渡し、覚醒剤を使える状態にして、社会に戻している。社会に迷惑をかけている。」
一方で、覚醒剤使用が原因となった疾病状態で医療を求める患者を精神科医療が通報する態勢をもてば、覚醒剤乱用者は潜在し、覚醒剤を使い続けるし、精神科医療を訪れて通報され、刑務所に行くことも莫大な経済的負担を社会にかけます。精神科医療が通報しても解決には結び付かないことも知っていました。
また、患者による規制薬物乱用を取締職員に伝えるか否かという重大な事柄は精神科医療だけでなく、社会全体の重要事項であり、個々の医師が安易に決定するべきではないとも考えました。
そのように解決が見つからないままに10年近く悩みながら診療にあたっていたところ、1999年の正月にここに示す∞連携の大元を考えつき、さまざまな検討から、その∞連携を支える精神科医療の態勢が社会全体の賛同を得られものであろうと判断したのでした。
●現在の取り組み
その後、2000年から∞連携を支える態勢を、関東麻薬取締部の協力を得て開始し、2020年の現在も月に一度、当院に麻薬取締官が訪れ、患者と面接しています。
警視庁と当院の間では同様の処遇を2012年1月に開始し、後に2016年10月で一旦、終了としました。
現在は患者の規制薬物乱用に関しては、それへの対応方針を明確にもっており、おそらくは正当なものであるので、その点に関しては楽な気持ちで診療ができています。