第1回研究会
(オンライン)

【テーマ】
刑事司法体系による治療の強制に関する実際と法
2022年2月28日(月)
19:00~21:00

テーマ

刑事司法体系による治療の強制に関する実際と法

開催概要

●日程・開催時間
2022年2月28日(月) 19:00~21:00
※後半30分間は意見交換

●形式
オンライン開催 Zoom(※)で行います
※Zoom(ズーム)とは無料で簡単に使えるWebサービスです。事前にアプリのインストールが必要です。
PC、タブット端末、スマートフォンでご視聴いただけます。ご視聴にはインターネット環境が必要です。
受講に伴う通信料は受講者負担となります。

●事務局
条件反射制御法学会事務局

受講費について

(参加費用)
●会員
1,000円
●非会員
3,000円

(2021年度会員年会費)
●2021年度の会員になって参加される方
会員参加費に加えて年会費5,000円

●会員であるが2021年度年会費を今回支払う方
会員参加費に加えて2021年度年会費5,000円

(1)非会員の方は、参加申込時に入会手続きができます。(年会費5,000円) 
入会手続き完了後は、その時点での最新号から学会誌をお送りします。

(2)お支払方法
・郵便振込ご希望の場合 自動返信メールの記載を必ずご確認ください。
・クレジットカード決済 決済プラットフォームはStripe(ストライプ)を使用しています。

(3)参加費はお支払い後、参加者様都合の場合、返金はできかねますので、ご了承ください。

申込み方法について

上部タブ「申し込みフォーム」をからお申し込みください。
※申込完了時に申し込みフォームに記載された「連絡先メールアドレス」に自動配信されます。
自動配信メールが届かない場合は、受付が完了していない場合がございます。問い合わせ先のアドレスに照会をお願いします。
※HP申し込みフォーム以外の郵送・電話・E-mail等による申し込みは受理できませんのでご注意ください。

募集期間

~2022年2月14日(月)まで

注意事項

PCの問題、WEB接続環境が整っていない等の接続に関するサポートは行っていませんので、ご了承ください。

研究会についての問い合わせ先

下総精神医療センター  担当:寺内 〈受付時間:平日9:00~15:00〉
〒266-0007 千葉県千葉市緑区辺田町578番地
E-mail:crct.mugen@gmail.com 電話:043-291-1221(内線8328)

研究会当日の緊急連絡先

NPO法人アパリ 担当:尾田
電話:090-3047-1573

応募受付を終了しました。多数のご応募ありがとうございました。

第1回研究会「刑事司法体系による治療の強制に関する実際と法」の紹介

薬物乱用者に対する精神科医療を専門的に開始して間もない頃は、私は法のことを知らず、警察が逮捕した薬物乱用者には裁判で刑罰も課し、治療も強制すればよいではないかと考えた。薬物乱用者に援助的にかかわる者には上記のように考える者は多いであろう。

しかし、法はそのようには都合良く構成されていない。犯罪として扱うならば、病気の症状でないことになるので、覚醒剤乱用者に対して治療は強制できないのである。
一方で、取り締まって刑罰を与えることで薬物乱用者にかかわる領域の者は、全員とは言わないが、規制薬物乱用は犯罪行為であり、病気ではないだろうと考える者もいるであろう。

真実は1つであるが考え方は多くあり、真実を把握しても、対応する体系には整理するべき焦点が多くある。
条件反射制御法学会が開催する第一回の研究会は、ダルクのシンクタンクであるアパリの事務局長尾田真言氏が、刑事司法体系が治療を強制する態勢がどのように変遷してきたかに焦点を当てて報告し、解決策を示す。

尾田氏は2000年から、検挙された薬物乱用者にかかわって多くの方を治療や訓練につなげてきた経歴をもつ。その活動の中で2009年に、第一審で実刑判決を言い渡された累犯ケースを、法律上は実刑判決しか言い渡すことができないにもかかわらず、尾田氏は故奥田保弁護士と協力して下総精神医療センターを制限住居にして保釈を得て、入院させた。それは、日本の刑事司法上、覚醒剤取締法違反の実刑確実事案に対して、純粋に治療を目的にして保釈が許可された初めてのケースであった。その保釈は、刑事司法体系の強制力が、被告人に治療が提供されるように利用されたものであり、刑事司法体系にあった厳罰主義からの展開を告げる大きな出来事であったと私は考えるのである。

尾田氏の報告を理解するには、ヒトの本当の行動メカニズムを知っておく必要があるので、ここに簡単に示す。

ヒトは行動の中枢として2つの信号系をもつ。1つは第一信号系であり、本来は過去に防御、摂食、生殖に成功した行動を反射で再現する中枢である。もう1つは第二信号系であり、未来に自分の計画した行動を実現しようとする中枢である。

これら2つの信号系は、行動の方向が同一であれば摩擦せず進むが、行動の方向が異なれば摩擦し作動性の強い信号系による行動が生じる。同一行動が反復されるとその行動を司る第一信号系の作動性が高まり、第二信号系の制御を振り切って、第一信号系による行動が生じる。

覚醒剤乱用者に対する刑罰はヒトの第二信号系に対して、刑罰を回避する計画を立てさせ、それを実行させる。一般予防には絶大な効果をもつ。従って、刑事司法体系が覚醒剤乱用者に刑罰を与える法は守るべきである。

一方で、刑罰が効果を表すのは第二信号系に対してであるから、一旦、覚醒剤を摂取する行動が条件付けられた第一信号系をもつ者に対しては、刑罰は限定的な効果しかないのである。これが、刑務所内に薬物乱用者が多い理由である。

2022年1月
条件反射制御法学会
理事長 平井愼二

テーマ:刑事司法体系による治療の強制に関する実際と法

報告者:尾田真言(NPO法人アパリ事務局長・国士館大学法学部講師)

薬物犯罪、万引き、盗撮、痴漢、ストーカーなど、反復する違法行為で検挙された者にどのように治療の機会を提供することができるのか、その場合の義務付けは可能かについて、変遷を示し、検討を加えた。

1.反復する違法行為を行った者に対する治療強制の変遷
1)治療の義務付けの法的根拠
1907(明治40)年に制定された日本の刑法は、刑罰の種類として、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料と没収を規定するだけで(刑法9条)、保護観察の規定はあるものの、治療についての規定はない。一方、刑務所における刑の執行方法や受刑者の処遇方法を規定しているのは、1908(明治41)年の監獄法、後に2005(平成17)年に全面改正されて教育的処遇に重点を置いた受刑者処遇法、2006(平成18)年に刑事施設収用法になった。また社会内処遇について規定しているのは、1949(昭和24)年の犯罪者予防更生法、1950(昭和25)年の更生緊急保護法、1954(昭和29)年の執行猶予者保護観察法、後に2007(平成19)年に更生保護法に一本化されているが、いずれも治療の義務付けについての規定はない。治療の義務付けについては、2003(平成15)年の医療観察法が重大な他害行為を行った者の社会復帰を促進することを目的として制定されたが、この法律は特定行動を反復する者の障害、すなわち、特定行動に対する第二信号系による行動の制御が阻害される者を治療するものではなく、幻聴、妄想、気分の異常等、第二信号系に広範な障害がある者の治療を義務付けているのにとどまっている。

2)NPO法人アパリの司法サポート
ヒトの行動原理に基づかないで制定されている刑事法の下で治療を義務付ける方法について検討する。反復違法行為者には病識がなく、また自らの状況を否認する者が多いことから、自らの意思で治療する者は少ない。そこで刑事司法の持つ強制力を活用して、治療を義務付ける方法を考案した。保釈で設定される制限住居と、仮釈放で設定される帰住地から勝手に離れると、保釈の場合は保釈が取り消されて収監され、保釈金が没取されること、仮釈放の場合には仮釈放が取り消されて収監され、残刑期間、服役しなければならなくなることから、治療機関にとどまらないといけないという事実上の強制力が働く。

いずれも本人が希望して、自ら手続をしないと実現できないことではあるが、裁判で再犯防止に向けた具体的な努力をしていることは有利な情状として評価されるし、本格的な治療環境の準備があることは、早期の仮釈放につながることから、これを希望する者は多い。

①保釈中の治療
2000年に、保釈中から制限住居を回復施設や病院に設定して保釈申請ができるよう、コーディネートし、保釈のその日からダルクに入寮して、あるいは病院に入院してプログラムを受けさせる事業を開始した。当初は法律上執行猶予がつけられない累犯や、ほぼ実刑となることが予想される執行猶予中の再犯については、保釈が認められることはほとんどなかった。

実刑確実事案については、2009年に国立病院機構下総精神医療センターを制限住居とした保釈決定が累犯者と執行猶予中の再犯者に出された。このときは、第一審実刑判決後に、便宜上、量刑不当で控訴した被告人に対して、高額な保釈金額で下総精神医療センターに入院する許可が出た。その後、執行猶予中の再犯者に対して、第一審段階で起訴後、通常の保釈金額ですぐに保釈が許可されるようになってきた。その後10年経過し、最近は揺り戻しが起こり、多数回受刑者に対してはなかなか保釈が許可されにくくなってきている。

②刑務所出所後の治療
仮釈放の場合は、帰住地と引受人が必要となる。帰住地を治療機関に設定することで、仮釈放のその日から治療を開始することができる。ダルクを帰住地、引受人をそのダルクの責任者に設定することで、出所後のサポートは始まった。しかしながら、仮釈放日に病院に入院することを認めてもらうのはなかなか困難だった。病院の医師は引受人として認められない。なぜなら退院後まで監督できる立場にないからというのが理由だった。そこで、退院後に監督するものを引受人、退院後に居住する場所を帰住地に設定し、仮釈放日に保護観察所で旅行許可を出してもらう方法で、精神科医療施設に入院させることを開始できた。しかし、その方法を実現しているのは下総精神医療センターと結のぞみ病院にとどまっている。

2.治療を強制する方策
現在の刑事法制度では、ヒトの行為を第一信号系と第二信号系に分けて考えるようにはなっておらず、ヒトの行為は思考にみに基づくものというフィクションの上に成り立っている。正しい行動メカニズムに立脚して、刑罰と治療処分を導入した新たな刑法の創設が必要である。