∞メール No.26

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一部を抜粋したものを下に掲載しています。

会員の皆様
寒くなってきました。皆様、お変わりありませんか。
ヒトの行動や健康に働きかける技術や制度は、徐々に変化しています。医療に関しては、主にその領域で働いている私は、この数十年で大きく変化していると感じています。その大きな変化の1つは癌の治癒率が上がったことでしょう。また、私が医師になった頃にはまだ謎の病のように言われていた後天性免疫不全症候群に関しても良好にコントロールできるようになっています。精神科の領域でも、主な疾患の1つである統合失調症には新たな抗精神病薬が開発され、入院治療から地域でのケアに変化し、社会内で楽しく生活している患者さんが増えています。
反復する行動に関しては、社会全体で見るとまだ刑事司法体系によるものが処遇の大きなところでしょう。この100年ほどでは1953年に麻薬取締法が公布され、取締法でありながら入院に関する規定があり、援助的なかかわりの設定も古くからあったのです。そのように取締と援助の両方が、ヒトの行動を変化させるためには必要であると考えられながら、まだ、取締と援助の連携は良好ではなく、厳罰主義であると言わざるを得ません。刑事司法体系には、一定の変化がありますが、まだまだ、変化するべきところは多いように感じます。
条件反射制御法は、ヒトが行動する本当のメカニズムを、信号系学説を基にして相当な程度に把握しつつあります。そのことは反復する違法行為の責任がどこにあるかを明らかにして、取締と援助の連携を良好に成立させることに繋がります。条件反射制御法にはそのような可能性があると捉えて、研究を進めて行こうと考えています。取締側と援助側の連携の一部が、条件反射制御法学会の「∞連携支持施設」の頁に記載されています。皆様、ご覧ください。

平井愼二

下総精神医療センターでのCRCT実地研修を受けて

見えてきた答え

青森ダルク
スタッフ 山田 晋也
(2020年7月17日寄稿)

2020年6月22日から6月26日までの5日間、実地研修に参加させて頂きました。
新型コロナウイルスの影響を心配しておりましたが、予定通り研修が行われたことを有難く感じております。

研修初日の前日からホテルに入りました。荷物を整理し、食事をした後に予習をしようと頑張りましたが、不安と緊張であまり頭の中に入りませんでした。一体どんな研修になるのだろうかという恐怖もあり、また楽しみでもありました。
初日のオリエンテーションが午後からということだったので、余裕を持って現地へ向かうことが出来ました。過去、2度の研修会に参加させて頂いたこともあるせいか、別に故郷ではないのですが、戻ってこられたような嬉しさを感じながら鎌取駅から病院まで歩いておりました。病院に到着し案内して頂いた部屋で、今回の研修生が自分一人だということを知りました。
マンツーマンだから良かったねと言われましたが、有難いような恐ろしいような複雑な気持ちになっていました。大まかな流れや鍵の取り扱い等についての説明をして頂いた後、病棟の方に案内されました。病棟スタッフの方や入院している方への挨拶をさせていただきました。その後早速、宿題だったテストの解説などをしてもらいました。
今回は研修という形であの場におりましたが、3年程前薬が止まらず困っていた時は、地元の精神病院への入退院を繰り返していました。隔離室や各部屋などを他人ごとではない気持ちで見ていました。
地元の精神病院に入院していた当時の僕は、薬が使えない環境でただみんなと生活していたという感じでしたので、退院または外泊すると薬を使って隔離室というパターンを繰り返していました。
条件反射制御法を知ったとき、治療法やそのメカニズム、期待できる結果が明白だったため僕は、「もし早いうちにこの治療を実践していれば何度も何度も入院する必要はなかったのではないのか?」と正直考えておりました。初日を済ませてほっとしていました。ものすごく厳しくしごかれるのではないかと思っていましたが、それはただの妄想だったようです。
2日目、電車を間違えて遅刻してしまいました。前回の研修も合わせるとかなりの回数乗っているのに、ホームや乗る電車があまり分かっておらずそうなりました。本当に申し訳ありませんでした。
大丈夫ですよ、と笑顔で迎えていただき本当に救われました。朝のカンファレンス参加時には、毎回平井先生からの抜き打ち質問を頂き、何を聞かれるんだろうとドキドキしていました。
しかし、平井先生の抜かりの無い感じは好きだったので実は楽しかったように思います。毎日、入院されている方に実際に疑似や制御刺激を見せてもらったり、
欲求の変化を聞かせてもらったりしました。薬物以外の問題行動を持っている方に色々と話を聞く事ができたことや、その疑似を見せていただけたことは初めての経験だったので本当に有難かったです。ただ覚せい剤の疑似を見た時は焦りました。偽の注射器やパケに入った偽の覚せい剤があまりにもリアルでドキドキしておりました。
そしてそれを使って平然と疑似をされている方を見て思わず笑ってしまいました。「平気なんですか?」と聞くと「ああ、もう大丈夫ですよ」と言っていたので驚きました。
また、僕が大変だなと感じていたことは各ステージで治療作業に関して患者さんが受けるテストです。僕自身理解するのに苦労しましたし、正直今も自信はありません。
採点と解説をスタッフさんに助けていただきながら僕が患者さんにしていくのですが、解説をするとなるとしっかり基礎から分かっていないときちんと伝えられないと感じました。
解説をさせてもらう度に自分がよく分かっていないということを思い知らされるので、解説の時間は少し辛かったです。
3日目に平井先生の外来を見学させて頂きました。先生は患者さんにとって大事なことやるべきことを伝えるのですが、それに対してあまり寛容的ではないシーンが印象に残っています。
きちんと言われたことをやっている方とやっていない方の違いがはっきりしていたことも印象的でした。そういえば僕も当時担当してもらっていた先生のもとへ外来に通っていた時、先生は僕のために一生懸命アドバイスして下さっていたのに僕が思っていたのは、きっと僕にいじわるしてるんだ、だから薬も出してくれないんだという感じでした。
その時担当して下さった先生に申し訳なかったなという気持ちになりながら、目の前で真剣に治療を働きかけている平井先生を見て、患者さんに対して治療を働きかけることは本当に難しそうだという事を感じておりました。
この研修期間中に、僕自身の制御刺激、疑似、想像の設定をして頂き実際にやらせてもらいました。そこで僕は、「うわ!やばい!」と思った事と、「だからそうなるのか」と納得したことがありました。ヤバいと思ったのは疑似の場面でした。僕が当時メインで使っていた薬は咳止め薬だったのですが、その疑似薬を実際に容器から自分の手のひらに出して、それを口の中に入れてペットボトルに入った水で飲みこむという事をしました。
正直やる前は、別に何も変わらない(身体、精神に変化がない)と思っていました。しかし実際やってみると、かつて自分がよく行っていた行動の感覚がはっきりと甦りました。
なんというか、忘れていた感覚が一瞬にして戻ってきたような「やばい!」という感じになりました。飲んだ錠剤はただの偽薬だったのですが、僕はあの行動(外箱から薬の瓶を取り出して中から錠剤を掌に出して数えて飲み込む)をやった後に何だか効いてきたような感じがありました。
普段のミーティングなどでは、過去や現在の辛かったことなどの話はするのですが、薬を使っていた部分に関しては放置されていたんだと分かりました。3年近くやってなくても一瞬で甦る感じに、とても恐怖を感じました。だから、生理的報酬の無いこの疑似を繰り返してこの部分の反射連鎖の作動性を抑制していく必要があるのだと理解できました。
泊まっていたホテルの横がドラックストアだったのでドキドキしながら過ごしましたが、なんとか無事でよかったです。
次に想像をやっているときのことでした。
ある1日のことを話しているのですが、1回目は、起きた所から始めてとてもはっきりと情景が浮かび話をしながら楽しくなっていたのですが、2回目の想像作業の時には何だか情景がぼやけていたのと、話も1回目の時より楽しくありませんでした。その時はただの気のせいかと思っていましたが、今考えると2回目は1回目よりあの1日を想像した時の薬の欲求レベルが下がっていたんだと分かりとても納得しました。
過去参加させていただいた研修を合わせ、今回の実地研修を経て、またこうして感想文を書かせてもらいながら考えていたことが少しずつまとまってきたように思います。
よく薬がやめられないのは脳の問題だからと聞かされてきたのですが、僕が持っていた情報はそれぐらいしかなく、いったい何が起きているのか、そしてどうすれば良いのか、という事の答えを自分自身が本当に納得できる形でいただけたと感じております。人間関係をうまく結べずストレスを一人で抱え死ぬこともできなかったために薬に頼っていたという事実に加え、薬を使うという僕の第一信号系の反射連鎖はすでに第二信号系が制御できない状態になっていたという事実を知ることができました。
単に社会性を身に着けただけでは不十分だと僕は今回感じました。
退院された方が施設へ入所しても維持していけるようにということで、そのための研修参加ではあったのですが、僕自身が大変興味を与えていただいた研修になりました。
平井先生、スタッフの皆様、研修期間中も本当にお世話になりました。ありがとうございました。