カジノ建設に反対する
- 賭博場を今以上に増やしてはならない -
条件反射制御法学会
理事長 平井愼二
ヒトの行動原理と賭博の性質を示し、カジノ建設について意見を述べる。
動物においては、環境からの刺激に対して中枢が作用して反応が生じる。その刺激と中枢作用、反応で構成されるのが反射であり、その反射の連鎖により行動が司られる。
動物がある行動により、防御、摂食、生殖のいずれかに成功すれば、後にその成功の前と同じ状況になったときにその成功までの行動を生じさせた反射連鎖がより強く作動する、変化が起こる傾向、並びに動物がある行動により、防御、摂食、生殖のいずれにも失敗すれば、後にその失敗の前と同じ状況になったときにその失敗までの行動を生じさせた反射連鎖がより弱く作動する、変化が起こる傾向をもつ群が生き残ってきた。
成功までの行動を生じさせた反射連鎖の再現性が強まらない傾向、並びに失敗までの行動を生じさせた反射連鎖の再現性が弱まらない傾向をもつ群は絶滅した。
過酷な自然を生き延びた現生の動物は、防御、摂食、生殖の成功につながった行動を、正確に強い駆動性をもって再現する本能をもつ。
ヒトも動物であり、動物と同様に反射で過去の生理的成功行動を再現する中枢をもつ。この中枢はパヴロフにより第一信号系と名付けられた。また、その中枢に加えて、ヒトのみが思考して未来の社会的成功行動を創造する第二信号系という中枢をもつ。ヒトにおいては多くの場合、第一信号系による行動を時と場所に応じて第二信号系が制御し、法律や文化に従い、社会と調和した行動ができる。
本能の内、摂食本能が作動すると、生じる行動の最終では口腔に食物を入れ、咀嚼し、嚥下するが、動物においては、それらの前には必ず狩猟あるいは採集をする。つまり、狩猟採集も本能により生じる。
現生の動物は、進化において本能が作動して狩猟採集行動が生じ、仮に失敗してさらに失敗を反復しても、その度に本能が作動して成功するまで狩猟採集行動が生じ、食物の獲得に至り、摂食して生き残った群である。ヒトもその一種であり、狩猟採集行動を執拗に反復する本能をもつ。
ヒトにおいて本能が作動する強さは個体間で差異がある。先天的な傾向も影響するが、後天的には生まれた後の家庭内の不和、学校でのいじめ、自然災害や事故、人間関係における緊張などの過酷な体験が多ければ、生きる方向の行動が過度に生じやすい第一信号系をもつことになる。つまり、本能が作動じやすい。そのようなヒトにおいては、さまざまな行動において第二信号系による制御を越えて、第一信号系に司られた行動を反復し、古い歌詞にある「わかっちゃいるけどやめられない」状態に陥る可能性が高い。
賭博は、仮に失敗してさらに失敗を反復しても、その後に成功に至れば、大金が手に入るシステムである。
従って、本能が作動しやすいヒトが賭博をすれば、賭博と同様の行動である狩猟採集を司る本能が刺激され作動する。賭博に失敗しても、食物の獲得行動を成功するまで行ってきた現生のヒトの第一信号系は作動し、賭博を執拗に反復するのである。賭博はヒトの本能に働きかけ、やってはいけないと「わかっちゃいるけどやめられない」状態に陥らせるのである。
そのような状態に陥ったヒトを作るべきでなく、まずは、賭博ができる施設を今以上に増やしてはならない。