会員の皆様
第13回学術集会が近づいてまいりました。
基調講演で私はヒトの意識と思考の成立について話します。その中の大きな焦点は意思あるいは意志と表記される現象が生じるメカニズムです。法律家は意思、哲学者は意志と記すことが多いと聞きます。私の臨床では法律家と関わることが多いので、ここでは意思という表記を主に用います。
意思という言葉を聞くと、薬物乱用や万引き、痴漢の治療に関わっている人は、それらをやめたいという意思をもっても、その意思が行動として実現されない現象を思い浮かべます。意思に関してのもう一つの大きな焦点が、意思が発生するメカニズムであり、世界的に未解決とされています。この問題は、意志という漢字が用いられて「自由意志はあるか、ないか」と表現されることが多いようです。この表現は、意思があればその内容が自由に行動として実現されるという誤った前提があるようにも感じられます。ヒトの行動が成立するメカニズムに関して正しい理解を広く普及させなければなりません。
現在は上記のように考えるのですが、私が反復する行動にかかわり始めた当初は、意思の発生が議論の焦点であることなど全く知りませんでした。薬物を使う人は使いたいと考えて使っているのであり、病気だということは無責任だとさえ考えていました。後の2006年に条件反射制御法を開発して、臨床での経験を重ね、検討し、無意識的に作動する反射が思考よりも強く行動を左右する現象があると理解しました。思考するとおりには自由に行動できないことがあり、それが特定の同一行動を反復する疾病状態の本質であると知りました。
そのような理解をもって、各疾病状態に応じて条件反射制御法の調整を進める時期が長く続いていましたが、ここ数年で第二信号系について深く検討し、行動を自分が決めて行っている感覚が生じるメカニズムを把握しました。行動が選択される現象は無意識的な反射の作用によるものですが、その現象の意識化の後に行動が生じるので、能動感が生じ、自分で考えて行動したと誤って理解するのです。
能動感が生じるそのメカニズムが、「自由意志」と表現されるものの存在を否定し、つまり、ヒトが意思を自由に発生させることを否定しており、重要な部分であると当会理事の小早川明子氏に指摘されました。私もそのように考えるようになり、基調講演の中で一つの焦点にして解説することにしました。
ヒトが意思を自由に発生させているか否かを研究する人達による記載を読むと、当初からその問題の解決を目標にして研究しているようです。私は、偶然に答えを見つけました。反復する行動が思考を越えて生じるメカニズムについて、反射の特性から考えている内に、能動感が成立するメカニズムを把握しました。偶然ではあるけれど重要なことを把握したのは、基本に忠実であったからだと考えています。
基本とは、動物の生命を支えてきた反射の作用のことです。つまり、生きることを支えた活動は再現性が高くなる、生きることを支えなかった活動は再現性が低くなるという自然の摂理です。この性質のみに基づいて私は能動感が生じるメカニズムを説明しており、その説明には、突然に理由なく加わる概念は全くありません。それだけに、いろいろな考え方を知り、それらを用いてヒトが行動するメカニズムを把握している方には理解困難な内容かも知れません。いろいろな概念を忘れ、白紙に書き込むように私の講演を聞いてくだされば、ヒトが意思を自由に発生させていないことを理解していただけます。
しかし、意思をヒトが自由に発生させられるか否かは世界では未解決です。学術集会には治療と訓練、及び刑罰と矯正教育に関する専門家が参加しますので、各領域での実務の向上を、意思の発生にも触れながら検討する場になります。条件反射制御法学会の学術集会には予定調和はありません。バトルロワイヤルのように盛り上がる楽しい会になればよいと考えています。
皆様、楽しみにして、第13回学術集会にご参加ください。