∞メール No.42

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一部を抜粋したものを下に掲載しています。

会員の皆様

先月のことですが、「百花」という映画をみました。その映画の公開日は9月9日でした。

百花という言葉で、その映画はいろいろなことを表そうとしたのでしょうが、その一つは花火であったはずです。夜空にたくさんの花が咲いたように見えるのは花火だからです。花火は夏の風物詩ですが、その映画は、夏の何かを描こうとするものではないので、公開日が9月9日でよかったのでしょう。しかし、映画の中に出てくるキーワードは「半分の花火」で、夏を象徴し、少し特殊です。

条件反射制御法において、行動の過剰な駆動性を抑制する方法として、体験を書き出しておいて、その後に読み返す作業があります。良かった体験を、最初は簡単に100話、そしてその後、一話一話を詳細に書き出し、刺激を書き残しておくのです。その後に、辛かった体験に関しても同様に書き出します。そして、一話読んで、その話に出てきた、人、物、声、音、動き、景色などを時間的に順序よく単語で20個書き出す作業を延々と続けるものです。

この作業の最も大きな効果は、行動の過剰な駆動性を弱めるのは辛かった体験の刺激を入れて、生理的報酬を与えず、反射を抑制することだと考えました。それを安全に行うために、まずは良かった体験の刺激を書き出すという発想でした。しかし、百花を見て、良かった体験の刺激を書き残すことの重要性を再認識したのです。これ以上書くと映画のネタバレになるので書きません。

さて、9月の「百花」の封切翌日に当会は第11回学術集会を開催しました。

今回も予定調和など全くなく、しかし、徐々に焦点を合わせる準備はできるようになってきたので、盛んな議論が交わされた良い会になったと感じました。

その会の一つの焦点は、薬物乱用問題に対する回復支援施設と精神科医療施設の連携であり、それをテーマにしたシンポジウムを行いました。その座長を務めてくださったのは、当会会員の西村武彦さんです。西村さんによるシンポジウムに関する報告を次に記します。

平井愼二

第11回学術集会の報告

シンポジウム「回復支援施設と精神科医療施設の連携」を終えて

さいがた医療センター 西村武彦
(2022年9月13日寄稿)

私は、9月10日に開催された、第11回学術集会のシンポジウム「回復支援施設と精神科医療施設の連携」の座長を務めさせていただきました。本シンポジウムでは、連携関係にある回復支援施設と精神科医療施設のそれぞれ3施設、計6名の先生方が登壇され、施設の概要や特徴、現在の連携の実際、連携施設に期待することなどをご発表いただき、連携についてディスカッションしました。今回は、その概要をご報告致します。

最初に、約7年間連携関係にある「一般社団法人 相模原ダルク」と「医療法人財団青山会 みくるべ病院」より、代表理事の田中先生と病院長の岡﨑先生よりご発表がありました。田中先生からは、相模原ダルクの特長である「5ステージ制」について、入寮者の回復に合わせて5つのステージを設け、ステージが進むごとにプログラムや役割を変化させ社会復帰につなげていくシステムは、入寮者のモチベーションにつながっていると紹介がありました。岡﨑先生からは、みくるべ病院が、神奈川県の依存症専門医療機関に指定されていることや、物質摂取を反復する疾患だけでなく、認知症を含む精神疾患全般においても幅広く診療していることが紹介されました。双方の連携においては、病院側は、「処方を簡潔にして社会復帰をしやすくすること」、及び、「入院対応において、診断や合併症への対応など治療水準を保ち、良くして帰すこと」、並びに、「生活訓練をスムーズに進めるための行政手続きのスピード感」を大切にしているとのことでした。さらに、ダルク側へは「先行く回復者の姿」を段階的にしっかり示すという役割を期待されていました。岡﨑先生は、回復においては、回復支援施設が主役であり、精神科医療施設は脇役ながら役割をしっかり果たし、信頼関係が大切であるとお話しされており、発表からも双方が信頼し合って良い関係を築いていることが伺えました。 

次に、「静岡ダルク」と「医療法人十全会 聖明病院」より、代表の藤村先生と、病院長の古川先生よりご発表がありました。双方の連携は、静岡ダルク開設当初から続いており、古川先生が院長に就任されてから、より緊密になっているとのことです。藤村先生からは、静岡ダルクは、より重い状態の仲間を積極的に受け入れているのが特徴であると紹介があり、古川先生からは、聖明病院について、全国でも数少ない嗜癖問題の専門病院であることや、作業療法士が11名在籍し、CRCTを担当していることなどについて紹介がありました。連携においては、相模原ダルクとみくるべ病院の発表と同様の連携の他に、ダルクと病院の協力のもと嗜癖問題専門デイケアを運営していることが特徴的でした。その場においては、ダルクの入寮者が指導的な役割や回復モデルとしての役割を担っているとのことでした。古川先生も「精神科医療施設が3ヶ月の入院でできることは限られており、回復においてダルクの役割は大きい」と発言され、双方の良好な関係性が伺えました。また、CRCT導入実績についてもお話しがありましたが、これまでダルク入寮者で対象となる方がおらず、今後ダルク入寮者で対象者が現れ次第、ダルクでの維持ステージ継続を期待しているとのことでした。

最後は、「一般社団法人 千葉ダルク」と「独立行政法人国立病院機構 下総精神医療センター」の連携について、代表理事の白川先生と専門病棟看護師の五月女先生よりご発表いただきました。白川先生からは、入院患者に対してダルク入寮のための面接をし、患者の特徴に合ったダルクを紹介していることや、ダルク内におけるCRCTの維持作業について紹介がありました。CRCTにより、欲求を最小限にすることで、社会復帰の過程がスムーズになるとのご発表でした。五月女先生は、薬物乱用者がもつ5つの問題「欲求」「社会性の障害」「幻聴・妄想・興奮」「薬物規制法違反」「経済的破綻」に焦点を当て、それぞれの連携についてご発表がありました。欲求については、病院がCRCTの導入を閉鎖的で安全な環境のもと担い、各ステージを実施し欲求を抑えた後に、ダルクに退院した場合は、ダルク内で維持作業を継続し、欲求が低減した状態を保つことが望ましい連携であるとのお話しでした。社会性の障害については、病院は、入院期間が短期で関わりも保護的であるため、ダルクが大きな役割を発揮するというお話しでした。幻聴・妄想・興奮の問題は、病院が対応しますが、欲求に対応する専門医療施設で対応すると本来の機能が発揮できなくなるので、一般の精神医療施設で対応することが望ましいというお話しでした。薬物規制法違反の問題は、双方が取締職員に通報しない体制を持ち、病院は、同意が得られた患者に対し、取締職員との面接を設定し、ダルクはそのような態勢をもつ病院に入寮者を受診させることが望ましいとのお話しでした。経済的破綻の問題は、病院が生活保護担当者に対し、必要な治療およびダルク入寮をしない場合は保護費を打ち切ることを警告して離脱を阻止するように働きかけることで、回復訓練の継続を支えることが必要とのお話しでした。

全ての発表終了後は、欲求への対応に焦点を当てディスカッションしました。回復支援施設の発表者の先生方からは、ダルク内では欲求がでないとのお話しがありました。入寮初期の欲求が強く出ている入寮者への対応について話を深めたかったのですが、時間が足りずできませんでした。精神科医療機関の先生方に対しては、CRCTの導入について意見を伺いましたが、それぞれの病院の事情により導入の程度には差が生じていました。午前の基調講演で、平井先生からCRCTとSMARPPの比較でCRCTの有用性が示されました。回復支援施設と精神科医療施設の連携においては、精神病性障害の治療および生活訓練では、それぞれの施設で信頼関係を築き連携がされていましたが、欲求に対する連携は、十分とは言えず、今後CRCT導入施設が増えていくことが必要であると感じました。