会員の皆様
この号は今年初めての∞メールです。
新たな年を迎え、当会は4月からの役員選挙を行いました。その結果は会員限定の頁で皆様にお伝えしました。
また当会は、これまでは学術集会と研修会を開催してきましたが、今年からは新たに研究会も開催します。
当会の目的は、ヒトが行動するメカニズムを明確にして、生活を阻害する神経活動が反復して生じる状態に対する条件反射制御法の実践技術の向上を図る学術研究の促進、並びに反復する違法行為に対応する社会制度のあり方に関する学術研究の促進をすることです。条件反射制御法の技法の向上だけでなく、社会制度のあり方にも研究の対象が及ぶのは、その技法の発展の経過で把握した行動メカニズムが、現在の刑事司法体系が一般予防効果を高くもつ一方で、特別予防効果が低く、累犯者を多く生むという欠点の原因を理論的に明らかにし、向かうべき方向を示す基盤理論になると考えているからです。また、その技法の基盤理論は進化に照らし合わせて導いたものであり、精神医学やその周辺の学問に留まるものではありません。
そのようなことから、会員の皆様には、技法の効果を向上させ、社会制度を適正なものにするために、広い領域の情報を加えて検討していただきたいと考えます。従って、今年から新たに開催する研究会では、反復する行動等に対して独特の活動を展開してきた方、あるいは興味深い技法に携わっている方、なかなか覗けない専門的な領域で活躍している方等を多様な領域から招き、ご報告をいただき、意見交換をします。
報告者の方には、報告の背景等を解説して論点と主張を示してもらい、議論を展開するものにします。先駆的あるいは特殊な技法や活動をしている方をご存じであれば、その方と報告内容の焦点を当会事務局にご連絡ください。あるいはご自身が報告される場合も同様にお願いします。
第1回研究会は2022年2月28日午後7時からZoom行います。
今年も反復する神経活動に囚われたヒトを回復させる方法を一生懸命、磨きましょう。
ワンポイントレッスン
第一信号系の作用を表現する言葉に求められる正確性
平井 愼二
通常のヒトは幼い頃からずっと、ヒトは考えて行動するものだと、漠然と把握して生活している。本当にそうなのかと焦点を当てて検討することを日常の生活ではまずしないが、ヒトは考えて行動するという理解が前提になったやりとりがなされている。例えば、他者による不可解な行動に対して「何を考えて、そんなことをしたのか」のように問うことには通常、違和感はなく、「すみません」と謝ったりする。
そればかりではない。動物も、質は低いが考えて行動していると多くのヒトは把握しているようである。幼児向けの絵本には、動物を題材にしたものが多く、それらの絵本の中では動物は考え、話し、未来を予測し、悪意をもったり、あるいはヒトを助け、善意をもったりするようにも書かれている。
つまり、我々は相当な程度に、行動は考えにより生じると教育され続けてきて、大人になった。
その結果が、逸脱した同一行動を反復する者に対する刑事司法体系の専門家や精神科医療とその周辺領域の専門家による誤解となっている。逸脱した行動を働いたヒトを裁き、あるいは治そうとする専門家も、ヒトは考えて行動するという誤解を前提として、逸脱した行動を次のように評価し、処遇を計画し、実行している。
裁判官や検察官、弁護士は、覚醒剤摂取や痴漢、万引き等は、意思で行う行為であるとして、刑罰の軽重に関して闘う。被告人がそれらの行為を自分で行ったと言えば、意思で行ったものと判断し、ほぼそれだけで有罪が確定する。欲求が生じて、それらの行動をしようと考えて行ったと判断するのであろう。
違法行為に責任を求められるかを判断する役についた精神科医師は、動機という言葉をもってきて、違法行為に理解できる動機があるかないかを重要な要素とすることがある。動機という言葉を使っても、理由と行動が結び付く理解できる考え方の道筋があるかないかを検討するのであり、そのような道筋があれば、動機があったと判断するようである。やはり考えがあったかなかったかを判断の焦点にしている。
精神科医療の領域では、認知という言葉があり、この作用に関してはいろいろな専門家がさまざまなことを書いているが、やはり考えのことを指すようである。また、治療の構成に記憶という言葉を取りあげる一派もあるが、特定の記憶があるから特定の行動に移るというメカニズムの始まりとして記憶を取りあげているのであり、やはり、記憶からその後の行動に結び付けるのは考えのようである。
ここまで示したように、ヒトは考えて行動するということがヒトを裁いて刑罰を与える領域、あるいは評価して治療する領域においても通常の考え方になっている。
その部分に対して条件反射制御法学会は、ヒトの本当の行動原理を見つめ、変革をもたらそうとする集まりである。
従って、ヒトは2つの中枢をもち、それらの内の1つは第一信号系であり、その第一信号系は過去の生理的成功行動を再現する中枢作用をもつことを、我々は、法律や精神科医療等の専門家に向かって、また、一般人に向かって、さらに、治療の対象となる患者に向かって、正確に伝えなければならない。
その第一信号系と、考えて未来の社会的成功行動を創造しようとする第二信号系の内、特定の行動に関して、強く作動した信号系が作る行動が生じるのである。
このワンポイントレッスンの焦点にやっと入れる。
信号系学説を知り、ヒトの行動を評価し、対応する者は、第一信号系の作用を表現する言葉を正確に使わなければならない。
第一信号系は意識せず、判断せず、計画せず、望まず、欲せず、意図せず、予測せず、決断しない。第一信号系に刺激が入れば、過去の積み重ねで決定されている反応により、身体が動くのみである。
だから、「第一信号系が生理的報酬を獲得するために、行動を起こそうとする」と言ってはならない。
正しくは、「第一信号系が、過去に生理的報酬した行動を、生じる方向に動く」と言うべきである。
「被告人の第一信号系が、無意識的に、商品を自分のものにするために、万引きをしようとした」と言ってはならない。「無意識的に」と言いながら、「するために」および「しようと」という意識的で目的と計画を表す言葉が続いている。だから、誤りである。
正しくは、「被告人の第一信号系が、商品からの視覚刺激を受け、それを獲得する行動が無意識的に反応として生じた」と言うべきである。
第一信号系は動物のもつものであるので、経過においては生き生きと変化するが、一時点においては機械のように決められたように作動するのである。
言葉の表現の誤りを言葉の上のことであるから小さな問題であるとしてはならない。それらの意識的で目的と計画を表す言葉を、第一信号系の作用を表す際に使うと、我々の頭の中では、第一信号系が未来の行動を目的として、それを計画したという誤った考えが1回生じる。また、その発言は周囲からの反論を受けず、誤った発言をした本人は受け入れられたと考え、成功したと把握し、強化される作用を受ける。その反復により、その誤解を辿った考えの神経活動は強化が重なり、第一信号系に定着する。議論を行う際、あるいは論文を書く際に、第二信号系を作用させているようで、実はそうではなく、言葉の誤用を反復した結果として第一信号系に強く影響され、第二信号系では自由度がごく僅かに制限された思考が作動し、第一信号系があたかも第二信号系のように作用するものとして、言葉を発し、文章を書いてしまう。
つまり、言葉の誤りは評価を誤らせ、治療技法や対応体系の構成の誤りに至り、それらは効果の不良なものになり、個人を助け切れず、社会を支え切れない。