会員の皆様
ご活躍のこと存じます。 ∞メール No.8をお送りします。
皆様の予定帳には来年を書き込むことが多くなってた思われます。
来年に向けて、もう一頑張りしまょう。
学会の動き
私が条件反射制御法学会の理事として事務局を引き受けた理由
NPO法人アパリ
事務局長 尾田真言
(2018年10月25日寄稿)
NPO法人アパリの活動を始めて19年目になります。薬物事犯者の回復コーディネート業務をしながら刑事政策の研究者として薬物事犯者対策を研究しています。以前は、処罰から治療へと薬物対策が変わればうまくいくと単純に考えていましたが、実務の経験を積むうちに、強制力がない限り薬物をやめようとしない人がいることを知ります。
刑事司法制度には強制力がありますが、日本の刑事司法制度においては、わかっちゃいるけどやめられなくなって違法行為をする人に、その違法行為をやらないようになるための治療を義務づけることができません。そのような中で立法論として治療処分創設を主張するために、説得力ある根拠として、パブロフの条件反射学説を基に構想された条件反射制御法の実践と研究から生まれた考え方に出会いました。第一信号系には治療と訓練を、第二信号系には刑罰と教育をという考え方です。そこで、条件反射制御法学会の事務局を引き受ければ、条件反射制御法に関する最先端の情報を入手できるだろうと考え、NPO法人アパリが、長谷川直実先生(現在、条件反射制御法学会副会長)が院長をしている札幌のデイケアクリニックほっとステーションから、このたび平成30年4月に条件反射制御法学会事務局を引き継がせていただきました。いろいろな不手際があり、学会員の皆様にはご迷惑をおかけしていていますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ご意見等ございましたらいつでも事務局(info@crct-mugen.com)宛にご連絡ください。
下総精神医療センターでのCRCT実地研修を受けて
~福祉的視座におけるCRCTの可能性を考える~
一般社団法人よりそいネットおおさか
大阪府地域生活定着支援センター
前阪 千賀子
(2018年7月9日寄稿)
この度、下総精神医療センターにおいて第44回条件反射制御法実地研修(平成30年6月25日~29日)に参加した現場での学びについて、福祉職の観点で感想を述べてみたいと思う。
まず、この研修が各回受講生を2名のみと少人数に限定されているのは、平井愼二先生をはじめ、病棟すべての医師や看護師の方々に多角の側面からご指導いただける非常に価値の高い研修であるためと痛感した。条件反射制御法(以下、CRCT)による治療の第1線で奮闘される下総精神医療センターの多忙極まりない業務のなか、正確に技法を習得できるように、出来の悪い私に対して終始変わらず熱意をもってご指導くださったことは感謝の一言に尽きる。
さて、5日間の研修の中で私が一番衝撃的だったのは、Aさんが初めて「想像ステージ」を設置される場面で、研究補助員さんの誘導で目を閉じ楽な体勢を整えて、朝目覚めてから薬物を使用するまでの1連の出来事を脳内で再現する作業に同席した時である。本人が見えるという色彩豊かな映像から、目覚めのタバコ一服の味、ヘアアイロンから頭皮に伝わる温度、自宅玄関を出る際に聞こえる呼び鈴の音、昼食のカレーライスが喉を通る触感、喉に沁み込む脱法ハーブの臭いなど、様々な感覚が鮮やかに蘇ると同時に、終了時には「嬉しさ」や「悲しみ」など両極端の気持ちに高ぶりを感じたことや過去に反復していた脱法ハーブを「やりたい」欲求が湧いたことについても正直に述べられた。また、2度目の脱法ハーブ吸引手前で中断してゴミ箱に捨てる想像をした場面では「げぇーー!もったいねぇー」と絶叫した後、閉眼したまま制御刺激(おまじない)をすると「映像がピタッと消えた」「なんかスッとした」と語り、欲求の存在は認めるものの我慢できると答えた。
瞬時に拡がる過去の世界を次から次と生々しく語る場面を目前にして、私は鳥肌が立つ程の体験をしたが、この理由は嗜癖行動により獲得していた生理的報酬が非常に強いために、数年経過しても豊かな想像が蘇るのだとご指導いただいた。だからこそ手立て無しに「欲求」そのものが自然に抑制できないことがよく理解でき、CRCTの理論が胸にストンと落ちる瞬間であった。疑似や想像で欲求が湧いてしまうのはどうか?とCRCTに対する批判を耳にすることがある。それはむしろ逆で、欲求をむさぼるように掻き立てて、繰り返し生理的報酬が獲得しない神経活動を再現して、過去の反射連鎖を抑制する効果を狙っているのがCRCTで、安全に治療するためにも制御刺激(おまじない)が設定されているのである。
そして、この翌日に想像ステージを初めて体験した感想を平井先生に尋ねられたAさんは、「まだまだ信じてないけど」と前置きしながら、高まった欲求が制御刺激(おまじない)で落ち着いた点を挙げて「CRCTの効果を体感した」「CRCTの信頼は7割に増えた」と述べていた。このように、治療当初には拒否的な態度を示したり半信半疑で作業に臨んでいた患者さんが、基本知識や制御刺激、疑似、想像、維持とステージが展開していくにつれて、次第に積極的に参加していく光景に遭遇した。もちろんAさんのように治療効果をリアルに体感できることが1番の要因と思われるが、その他に1.観察表によって気分や動作等、自身の変化が視覚的に捉えられること 2.作業回数を書き留めた表で自分の努力が目に見えること 3.階段状のステージ設置で治療の進度が一目でわかること 4.3カ月の入院治療という有期の設定で目標を立てやすいこと 5.先行くCRCTの治療仲間にロールモデルを見つけられること 6.病棟スタッフに、時には励まされ時には承認されて伴走してもらえること等、輻輳する効果が作用していると思われた。CRCTの治療を行う一方で、手ごたえある日々の成果や治療者を含めた他者との繋がりで自己効力感や自己肯定感を高め、自分の課題、あるいは自分自身に向き合う姿勢を支持していたのである。しかしながら、退院後も変わらぬモチベーションで維持ステージを継続していくことは、特に見守りや支えが少ない単身生活の場合は課題であるように思えた。
最後に、私が仕事上で出会う刑務所出所者に「なぜ罪を犯し繰り返すのか?」と問うた時、「無意識にやっていた」「なぜやるのか自分でも正直わからない」の返答に「内省が深まらない、困った人」と立ち行かない支援に困惑することがあったが、CRCTに出会い「わかっている」けど「やめられない」機序を学んで、ようやくその言葉の道理がわかったように思う。大阪はCRCTが叶う医療機関にも恵まれている。実地研修を生かし、また今後日々研鑽しながら、CRCTで救われる人々を司法、医療、福祉の連携によって社会復帰の道へと繋げていくことを固く決意し、まだまだ共有したいことは山ほどあるが、これを結びとする。