会員の皆様
新たな年になりました。今年もよろしくお願いします。
昨年12月の第7回研究会は発達障害を焦点にしたものでした。講演は臨床経験が豊かな講師から、障害と働きかけによる正常化のメカニズムが示され、興味深く、得るものが多い楽しい研究会になりました。
その研究会のように疾病を焦点にして、病態と対応法を学ぶことは知識を拡充する主要な方法です。当会の学術集会は、昨年は薬物乱用を焦点にして開催し、今年は性的逸脱を、来年は摂食本能の逸脱である病的窃盗と摂食障害を焦点にします。
病態と対応法を学ぶための異なるアプローチとして、疾病を焦点にするのではなく、対応法を焦点にするものがあります。例えば条件反射制御法学会の目的の1つは、条件反射制御法という対応法の効果向上です。そのように、対応法を焦点にして検討し、効果を向上させようとする学会は他にも多くあります。今年の当会の研究会では技法や学説を名称にしている学会から講師を招き、技法についての解説を受け、それらを材料にして精神科領域の働きかけを整理したいと考え、いくつかの学会と交渉を進めています。
ここで気になるのがそれらの技法の基です。つまり、働きかけの対象はヒトなので、ヒトの行動メカニズムと障害の病態をどのように捉えているかが気になります。そのようなことから、私は今年1月の理事会で2025年に開催する学術集会のテーマとして「ヒトの本当の行動メカニズムは」を提案しました。
また、理論だけでなく臨床での実技も鍛えなければなりません。CRCTフォローアップ研修と名付けて、条件反射制御法を臨床で用いている施設の職員が集まり、実務で生じた疑問や悩みを解決する研修会を開催します。当会のホームページに詳細が掲載されていますので、ご覧ください。
今年も頑張りましょう。
下総精神医療センターでのCRCT実地研修を受けて
治療の効果を目の当たりにすることができました。
東京都立松沢病院 看護師 村上さとみ
(2022年11月25日寄稿)
下総精神医療センターが2019年に開催した3日間連続の薬物乱用対策研修会に参加し、その中の1コマに条件反射制御法の講義がありました。今までとは全く異なる刺激的な治療の条件反射制御法に興味を強く持ち、2020年には条件反射制御法研修会に参加し、行動原理や治療のプロセスは理解できました。どの程度、治療に反応や効果があるのか実際に自分の目で見て体感したいと思い、2022年11月14日~18日の実地研修に参加しました。
私が勤務する病院は解毒を主としており、行動の反復を止める治療は行っていません。転院や施設入所を希望する患者様には情報提供を行いますが、約8割の方は解毒が済むと自宅に退院していきます。短期間で入退院を繰り返す方も多く、本当にこれでいいのかと日々関わりながら疑問を感じることも度々あります。病棟プログラムは1日1時間程度のため、入院患者様はゆったりと時間を過ごしている方が多くいます。実習で下総精神医療センターの専門病棟に足を踏み入れ初めて患者様を目にした時、治療に取り組む意欲の高さや姿勢に驚きました。ノートにはびっしりと体験の書き出しが書かれており、ノート療法の時間以外も作業に取り組んでいる方が多くいました。「早く次のステージに行きたい。」と前向きに話す方もおり、それだけ効果を感じる治療はどのようなものなのかと興味は更に深まりました。
治療の手順を理解していく中で、作業内容も多く知的水準が低い方には難しいのではないかと思うことがありました。個別性に合わせた対応を行うと治療は問題なく行えるという説明を聞いた時は半信半疑な気持ちがありました。しかし、実際に治療を受けている方の中には知的水準が高くない方もいて、そのような方も一生懸命学び、順調に治療を積み重ねていました。テストの誤回答をかみ砕いて分かりやすく説明をしているスタッフの個々の能力や、スタッフ全体の治療の理解度の高さにも目を見張るものがありました。仕事のやりがいを話される看護師の方もおり、これだけやりがいを感じながら日々関われているのはスタッフの方々もこの治療の効果を感じ、信頼をおいているからなのだろうと感じました。
疑似ステージの初期段階では、反応が強く出ている患者様もいました。中でも驚いたのが、視覚や聴覚にもリアルに反応が生じていたことでした。本当に見えているかのように幻聴や幻覚を語り、泣き出してしまう方もいました。それでも問題行動の疑似を行うことで気分の高ぶりを感じたりやりたいと欲求を感じたりしている姿を見て、第一信号系の作動性はこんなにも強いものなのかと衝撃を受けました。「もうやりたくない。」と言いながらも患者様は治療作業を続け、どんどん反応は低減していました。ステージの終盤では感じる症状もなく、「遊びみたいなもんですよ。」と話す患者様の姿から治療の効果を目の当たりにすることができました。
過去に参加した研修会で条件反射制御法の対象として取り上げられたのは薬物やアルコールの事例が多く、今回の実地研修での万引きや性的逸脱の対応方法は新たな学びでした。反射連射の中での先天反射や後天反射を意識することがなかったため、始めは説明を受けてもあまり理解することができませんでした。しかし、理解をして納得した時に、反射連鎖の内容を突き詰めて考え、治療開始してから15年以上経過してもなお改良がなされていることに感銘を受けました。ハームリダクションなど患者への関わり方は変化しつつあるものの、これだけ改良を重ね続けている治療は他にはないのではないかと感じました。
外来も見学させていただきましたが、条件反射制御法を続けている方は生き生きしているのが印象的でした。仕事をしている方も多く、他の治療よりも社会復帰が早いような印象も受けました。反復する行動に対する通常の治療だと、昼間はデイケアで、夜は自助グループで時間を埋め、施設に入所すると金銭や携帯の使用に制限がかかり辛いと話す方もいます。維持ステージは作業が多いのではないか、毎日続けるのは大変なのではないかと正直思っていました。しかし、作業回数を毎日医師にメールで報告しながら仕事もこなしている方が何名もいて、仕事をしながら治療を続けられることもこの治療の大きなメリットであるのだろうと感じました。
今回の研修で実際の治療反応や治療を継続している方の姿を見て、素晴らしい治療法であることを身をもって学ぶことが出来ました。治療環境や人員が整わないと実践をしていくことは難しく、すぐに治療に取り入れていくのは厳しい現状ではありますが、回復するために患者様が選択できる治療の選択肢が広がっていくためにもこの治療が広く認知されていく必要があると強く感じました。微力ではございますが、患者様にも治療の選択肢として紹介を続けたり、スタッフに伝達講習したりすることで当院でもこの治療を広く伝えていきたいと思っています。