会員の皆様
今年の学術集会まで残すところ1か月と少しになりました。
事務局を務めてくださっている共和病院の方のご活躍で盛大な会になりそうです。
次の記事は、その共和病院の職員である古橋さんからの投稿です。下総精神医療センターで5日間の実地研修を受けた感想を早くにお送り下さっておりました。
細部の確認のために掲載が今回になりました。
下総精神医療センターでのCRCT実地研修を受けて
患者様の人生を支えるCRCT
~見方が変わった5日間~
特定医療法人共和会共和病院
作業療法士 古橋 雅美
(2018年10月21日寄稿)
平成30年9月10日~14日の5日間、条件反射制御法実地研修に参加させていただきました。
私が勤務する共和病院では、平成27年5月より条件反射制御法を用いた治療を行っていますが、医師と看護師が中心となって行っているため、作業療法士である自分が実際に関わる場面はほとんどありませんでした。しかし、私が個人作業療法を受け持っていた患者様が、平成28年5月よりこの療法に取り組み始めたことをきっかけに、「制御刺激」や「疑似」「想像」といった当療法の実際の治療に触れる機会に恵まれました。
最初に「疑似」を見学した際は衝撃的でした。15年以上自傷を継続している患者様でしたが、刃を抜いたカミソリで手首を切る真似をし、そこに赤インクやケチャップを垂らして出血に見立てているのを見て、内心「ままごとみたい…。こんな治療で治る訳がない…。」と思いました。しかし疑似に取り組んでいる患者様の表情にみるみるニヤニヤとした笑みが浮かび、饒舌に話し始めるのを見て、「何だ、これは…。」と、その時は、理由はわからないながらも、反応の激しい表出に本当に驚きました。ちなみに、この患者様は無事退院され、その後再入院されることもなく、生活を送られています。
それから、機会があると院内の勉強会に出席し、理論等を勉強させていただきました。そして、今回、私の所属する部署から当研修へ参加させていただく機会を得たため、「実際に患者様の治療に関わったことのない私が受講してもよいのだろうか?ついていけるのだろうか?」という大きな不安を抱えながらも、参加させていただきました。
実際の研修は、朝の申し送りから終業まで、びっしりとカリキュラムに沿って行われます。実地研修ということで、患者様への実践が主となり、最初はとても不安でしたが、指導者の方が常に傍で見守って下さり、わからなければ見本を見せて、的確なアドバイスを下さるため、安心して取り組むことができました。また、平井先生をはじめとした病棟の全スタッフが、例えばステージの設定や同伴疑似、テストの実施など、治療の各場面で必ず声を掛けて下さるなど、病棟全体で研修を支えて下さっているという暖かな雰囲気が常に感じられ、頑張る原動力となりました。本当に感謝しております。
研修の中で改めて実感したのは、入院から退院までの治療工程が、理論に基づいてきっちりと体系的に進められていることです。今まで、勉強会等で、治療の各ステージについては学んでおり、自分なりになぜやるのかを理解していたつもりでしたが、どちらかというと暗記の知識であり、「なぜ、ここでこれをやるのだろう?」など、細かな疑問も持っていました。しかし、研修で実際の治療とそれに伴う患者様の反応を観察する中で、「だから、ここでこの治療をやるのか!」と、実感として自分の中に落とし込むことができました。研修の中で、自分の中で曖昧だった知識が、一つ一つ確信に変わっていく体験ができ、純粋に「楽しいなあ」と感じることができました。
また、研修中に平井先生の外来を見学させていただきましたが、そこでの先生と患者様や御家族とのやりとりを見て、「これも含めて『条件反射制御法』なのだ」と強く感じました。外来では「もうそろそろ仕事を探そうと思っている。」と明るい表情で報告される方がいる一方で、「生活リズムが崩れてきた。」と、御家族とともに相談に来た方、また不調の患者様を心配する御家族のみで来られた方など、さまざまな方がみえましたが、皆共通して明るい表情をされており、先生との強い信頼関係を感じました。診察の中で、生活リズムを立て直すための施設を紹介している姿を拝見したり、刑務所で服役中の患者様に先生が出された手紙をみせていただいたりして、その「どんな状況でも患者様を支える」という先生の姿勢が、患者様との強固な信頼関係を構築し、治療を支えているのだと実感しました。
私は今まで10年以上精神科で作業療法士として従事してきた中で、主に第二信号系への働きかけを行ってきました。条件反射制御法を学ぶ中で、第一信号系への働きかけを主とするこの療法の理論や有効性はとても理解できる一方で、「でも、人間なのに…。」と、どこか釈然としない気持ちがあったことも事実です。しかし、この外来での体験から、制御刺激をはじめとした、各ステージでの第一信号系にある逸脱行動の反射連鎖を弱める治療だけを重視している訳ではなく、麻薬取締官との面接や反射連鎖が弱まった後に行われる内観療法、退院後の治療動機の支持といった第二信号系への働きかけも大切にしている治療理論なのだと実感し、一層取り組む気持ちを強くしました。
研修から1か月を経過し、現在、少しずつではありますが、実際の治療に関わるようになりました。まだまだ補助的な立場ですが、今回の研修で学んだことを生かして患者様に寄り添っていきたいと思います。最後になりましたが、平井先生をはじめ、今回の研修を支えて下さった下総精神医療センターの皆さまに感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。