∞メール No.05

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一部を抜粋したものを下に掲載しています。

小論 「依存」という言葉について

下総精神医療センター 平井 愼二

 依存という言葉で、酒や薬物の物質摂取の反復、病的窃盗、病的賭博、摂食障害などの反復する行動を表現することは誤りである。

物質摂取を反復する疾患を依存症と呼び、診断名として使われることがあるが、その言葉は病態を適切に表していない。 例えばアルコール依存症という言葉を文字どおり捉えると、アルコールに依りヒトが存在するという意味になる。その意味に該当する状態は次のものである。 連続的な摂取によってアルコールが定常的に体内にあれば、その薬理作用による抑制に対して生体の機能が亢進し、不安定であるが均衡する状態が生じる。それが身体依存である。
その状態でヒトは一定の範囲で通常に近い行動がとれる。通常に近い行動がとれる状態は、アルコールが血中に一定範囲の濃度であることに依り存在し、その濃度を保つ行動はアルコールの頻回摂取である。そこでアルコール摂取を突然やめると均衡が崩れ、生体の亢進した機能がアルコールの抑制を受けないまま現れるので、自律神経の変調や意識の異常が生じ、生体の活動が不調になる。

そのようにアルコールやヘロインなどの抑制系物質を長期に連続的に摂取すれば、確かに依存という言葉を用いて表すことが適切な状態がある。しかし、その状態は物質摂取を反復する現象の成立において限定的な重要性しかもたない。なぜならば、物質摂取を反復する病態における重要な焦点は、身体依存からの離脱を終えた後のヒト、あるいは身体依存を生じない物質の摂取を反復したヒトが、身体依存のない状態で物質摂取を反復する現象だからである。

その現象を表すために精神依存という言葉が生まれた。この言葉はおそらくは身体依存に対して思いついたものであろう。

ところが、やめる決意に反して物質摂取をしてしまう病態の根幹は、摂取対象の物質に関連した刺激を受けてその物質を摂取する行動が反応として生じる反射の現象であり、上に示した身体依存とは異なるメカニズムで成立している。従って、依存という言葉を、物質摂取を反復する病態を指す言葉として使用することは不適切である。

言葉は理解に繋がるので、病気の名前はその病態の理解に繋がる。従って、過度に反復する行動を精神依存と呼び始めたことが、現在の混乱を生じさせた原因の1つであろう。

病的窃盗や病的賭博などの病態が物質摂取を反復する病態と同様であると解釈し、病的窃盗や病的賭博を依存症と呼ぶ風潮がある。 まずは、物質使用障害を依存と呼ぶことが誤りなので、病的窃盗や病的賭博などを依存と呼ぶことが誤りであることは当然なのである。

また、窃盗や賭博を反復するヒトがそれらの行動を起こさないことで意識障害や自律神経の異常が生じることはなく、当然ではあるが、窃盗や賭博により回復したり、保たれたりする均衡状態はないのである。したがって、窃盗や賭博などの行動に依りヒトの存在を支える現象はなく、物質使用障害の身体依存に当たるものさえないのである。 つまり、病的窃盗と病的賭博はいずれも各行動を促進する反射の連鎖が、刺激に反応して作動し、各行動が過度に反復するメカニズムが全てであり、病的窃盗や病的賭博を依存と呼ぶことは、物質使用障害を依存と呼ぶ以上に甚だしい誤りである。

このように、行動を過度に反復する状態を依存という言葉を使って表すことは不適切である。

しかしながら、まだICD-10には依存症候群の名称をもつ項目がある。その依存症候群の項目は、特定物質が血中からなくなり、正常に機能するようになったヒトが、特定物質に対する欲求を感じ、再び摂取する病態をも含んでいる。つまり、物質摂取を反復する病態を誤解させる診断名が世界で広く使われているのである。 反復する行動を依存と呼ぶことは、その病態に関して正しい理解をもっていないことの現れであり、反復する行動がいつまでも不思議で治らない病気のままになる。

反復する行動を成立させる根幹は、過去の行動により条件づけられた反射の連鎖が過作動を起こす状態であると正しく理解しなければならない。その理解に基づいた治療を受けて反射を抑制し、生活能力の低下がある者は生活訓練を受ければ、反復する行動は完治する。

CRCT利用施設から

K’sセラピールーム 代表:片山太郎
http://www.ks-therapyroom.com/

みなさま、初めまして。K’sセラピールームというカウンセリングルームをしています。片山太郎と申します。以後、お見知り置き下さい。

僕と条件反射制御法との出会いは、2011年3月11日に下総精神医療センターで開催された第一回条件反射制御法研修会でした。当時、僕はまだ看護師で、岡山県精神科医療センターの依存症病棟で働いていました。そこで、当時の病棟医長から「条件反射制御法という治療ができた。しっかり学んで来なさい」という言葉を言われ、その先生は普段そんな事を言うことはなかったので、どんなもんじゃろうかと気合を入れて下総精神医療センターへ学びに行ったのです。

そこでファーストインパクトですね。丁度、震災と重なったのもありますけど(驚)。あの衝撃は今も僕の心の中に残ったままです。
あの時、平井先生は「逸脱した行動を反復する状態(いわゆる物質使用障害や病的賭博など)は治ります」と事も無げに言われました。そして、条件反射制御法の理論の説明を聞くたびに、目から鱗がボロボロと落ちる感じがしました。僕が臨床で見てきた不可思議な現象の答えがそこにあったからです。

病院にその知識と技術を持ち帰り、次の日から、さっそく実践していきました。そりゃあ、没頭しましたよ。だって「治らない」と言われていたものが「治る」と言われたらそりゃあ頑張るでしょう。という感じです。

やっていく中で強い手応えを感じました。それは、今までいろいろな言葉を使って患者さんと話しをしてみても、認知行動療法などの治療と言われるものでも得られなかった感覚、反応でした。そして、僕の中でも「物質使用障害や病的賭博などは治癒可能な病気である」という確信が持てるようになりました。

2014年1月27日から同月31日は条件反射制御法実施研修に参加させていただきました。やはり、座学では得られないものが実施研修の中にはありました。実際に自分の目で見ることで、自分の条件反射制御法の理解のできていなかった部分が埋まっていく感じがありました。

僕は、病院でずっと一人、条件反射制御法をおこなってきました。他の職員や医師に「一緒にやろう」と声を掛け、この治療の素晴らしさや効果も伝えてきたつもりです。しかし僕の力不足なのか、病院内でどうしても広めていくことができませんでした。僕は、効かない治療より効く治療だろう、という思いでずっとやってきましたが・・。

結局、なかなか病院でやっていくことが困難となってしまい(そこらへんの詳細は割愛しますが)、僕は病院を出て、自分の治療院を立ち上げることにしました。そして、2016年2月8日 民間のメンタルヘルス治療院K’sセラピールームを開業することとなりました。開業にあたり、平井先生にご報告した折、優しいお声掛けをいただきました。平井先生には、この場をかりてお礼申しあげます。ありがとうございました。
開業してからは、めっきり物質使用障害や病的賭博などをみる機会は減りましたが、それでも、生きづらい、うつ病、不安障害・・などなどに対して条件反射制御法はとても有効であると言うことを日々実感し、この治療に無限の可能性を感じているところです。
その可能性は僕のHPの治療を終えた人たちの感想文を読んでいただけたら分かっていただけるのかなと。ちゃっかりK’sセラピールームの宣伝を入れてみました(笑)。
僕は、多くの方に条件反射制御法を積極的に取り組んでいただきたいと思っています。そして、この治療の無限の可能性を感じていただきたいと思っています。

末筆ながら、条件反射制御法のさらなる発展を心より願っています。

下総精神医療センターでのCRCT実地研修を受けて

命を救い、希望をくれたCRCT

結のぞみ病院
治療補助員 中村牧子

 2017年9月25日から29日にかけての実地研修は、私が待ち望んで参加させていただいたものでした。

私が条件反射制御法(CRCT)と出会ったのは、2015年の年明けのことでした。私自身がアルコール症、病的窃盗、過食嘔吐、睡眠薬過量服用の問題をもつ当時者だったのです。2015年から大阪にある結のぞみ病院(旧汐ノ宮温泉病院)にてCRCTを受けました。

入院した当時は、自分は本当に止めたい気持ちはあるのに止まらないのは意思の問題ではないということを認めた時期でした。それまで、いろいろな病院で治療しても一向に治癒に向かわず、病気が深刻だったために仕事を失い、家族と過ごすこともできず、他にも大切なものを沢山失ってきました。それでも、どれほど強く、「お酒も万引きも、もう、やめよう」と誓っても次の日には反復している状況でした。入院8か月の期間は制御刺激と疑似、想像を一心に行って過ごしました。退院するころには、普段は飲酒欲求を感じなくなり、退院後2年以上経った今では何かストレスがあっても飲酒欲求は年に2回あるかないか、という状況です。入院直前まで強かった病的窃盗の欲求は、入院中の疑似のステージで消え、以来、一度も再発することはありません。過食嘔吐は、制御刺激と疑似過食などを続け、時間はかかりましたが次第に減りました。そして、睡眠薬は退院後もしばらく処方してもらいましたが、サティスフェイク(錠剤の形状をした食品で薬理作用はありません。疑似物質と知って服用するものです。)の服用を開始し、同時に本物の処方を中止したところ、毎日充分に睡眠がとれるようになりました。

また、退院後は、病院で実施されているCRCTの治療の補助員として様々な患者さんに関わり、欲求が低減するのを目の当たりにし、CRCTの効果を実感してきました。

下総精神医療センターにて5日間の研修で学んだことは、CRCTを効果の高い治療とするために、CRCTがヒトの行動原理に応じて構成されているため、その技法を正確に習得し説明できなければいけないということでした。

今回の実地研修にて特に丁寧に教えていただいたことは、維持ステージの重要性でした。これまで私は制御刺激、疑似、想像をずっと続けて実施してきましたが、維持ステージの重要性について深く考えることがありませんでした。しかし、今回の実地研修で、第一信号系は、その歴史の長さと支えてきた生命の数の多さから第二信号系に勝ってしまうものであり、また、38億年間、季節の変化を生き延びてきたので、その反射連鎖を放置すると回復してしまうということを理解できました。私の中で出来上がった飲酒や万引きへの反射連鎖は、疑似や想像で抑制されたとしても放置すれば反射が戻ってくるということを学んで、今後もまず自分が維持を真摯に実施し、そして患者様に伝えていくことを決意しました。

今回の実地研修では、自分なりにCRCTについての知識を定着させることが出来、そして益々CRCTの魅力に取りつかれることとなりました。今回の研修を良い機会にして、今までの私の経験を今後のCRCT実施に活かしていきたいと感じています。そのためには、より正確にCRCTを理解し、そのうえで患者様に必要な方法を正確に用いていきたいと思っています。

今回は、下総精神医療センターという私が普段、業務を行っている病院とは違う場所でのCRCTの現場を経験させていただいたのですが、当院にはないシステムの精巧さ、スタッフのCRCTに対する知識の深さと意欲の強さに感銘を受けました。患者様の治療ステージの進行をスタッフ全員で管理しながら進めていくので患者様の各ステージの進行具合を情報共有するスピードが速いと感じました。またスタッフからの説明が親切なので、CRCT実施において患者様自身が何をすれば良いのか分かりやすいので安心感を与えるものだと感じました。

また、患者様は入院中、許可なく病棟から出ることはなく、面会も限られた方法で行われ、電話などの連絡もスタッフがキッチリと管理されている点は安全管理の面で優れていると思います。

当院は、CRCTの実施の現場に当事者である補助員が多数、寄り添います。CRCTによって欲求が低減することを体験している当事者が、患者様の疑似や想像に必要な方法を提案することも多く、患者様の安心や信頼を得ることができていると思います。今後、当院でのCRCTを充実させるために、補助員全体でCRCTへの知識を深めていくこと、そして安全管理について注意を払っていくことが望まれます。

最後に、病気に絶望しながら生きてきた私が、CRCTによって生きる希望をつかみ、今回の研修によってさらなる希望と意欲を持つことが出来ました。この研修を支えてくださった下総精神医療センターの皆様に感謝を申し上げます。ありがとうございました。