∞メール No.6

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一部を抜粋したものを下に掲載しています。

小論 治療を求めなかった不作為に対する刑罰

下総精神医療センター 平井 愼二

 例えば1000回目の覚醒剤乱用は、行為時点では第一信号系の反射連鎖により司られ、思考を担う第二信号系による制御は効かず、自由な思考による行為ではない。その行為を犯罪としてのみ捉えて刑罰で働きかければ、作用する中枢は、刑罰回避のために違法行為を避ける計画を立て、それを実現しようとする第二信号系である。つまり、検挙した行為成立の原因に対応しない処遇を用いていることが多く、現行の司法制度は刑罰を偏重している。

第一信号系の反射連鎖の作動による違法行為には、その反射連鎖が動かなくなる治療や訓練を強制する規定がある制度にするべきである。しかし、仮にその制度が、検挙した行為が生じた時点の中枢作用のみを評価するものであれば、違法行為を重ねるほど疾病性が高く、犯罪性は低くなり、極端においては違法行為を反復した者を病人であるとのみ把握するものになる。判決内容において刑罰は軽微あるいは無となり、違法行為回避の努力を第二信号系に怠らせる。つまり、現行制度とは逆に、治療や訓練を偏重する制度になる。

従って、反復傾向をもつ違法行為に対して治療を強制する法を導入する際には、検挙された違法行為の発現より過去において、治療の機会があるが治療を受けないという不作為をその時点の思考で選択したことを罰する法が必要である。また、効果的な治療を提供する治療施設を増やし、さらに、治療施設には精神障害の症状として生じた違法行為を通報せず、まずは治療の対象として受け入れる態勢を徹底させ、その情報を広める必要がある。

未来の司法制度は「原因において自由な行為」の考え方を捨て、代わりに過去に治療を求めなかった不作為を選択した第二信号系に刑罰を科し、ならびに、検挙した行為発現時点の第一信号系に対する治療と訓練、第二信号系に対する刑罰と教育を科すべきである。
反復傾向のある違法行為で検挙された者は次の①から④の要素を同時にさまざまな割合でもつので、それぞれに対応する処遇を、強制力をもって提供しなければならない。

①検挙された違法行為を司る反射連鎖を第一信号系にもつ。
②低い社会性や過去の過酷な体験は第一信号系を過敏にして、容易に行動を生じさせる。
③過去に、上記の反射連鎖の作動に対する治療を受けない選択を第二信号系がしてきた。
④違法行為をとめられる第二信号系の能力があったが、それを作動させることを怠った。

裁判の手続きにおいては、被検挙者に対して、検察官が上の①と②に対する治療と訓練を強制する検討の申立、並びに、上の③と④に対する起訴を同時に行い、その起訴内容に対して裁判官、検察官、弁護士が、並びに申立内容に対して同一の法曹と治療および訓練、観察に携わる者が、対応する処遇の全てを検討し、裁判官が言い渡す制度へ改正することを提案する。

上記の裁判は被検挙者がもつ問題に対応する処遇を求める流れになり、検察官と弁護士の間に大きな摩擦は起きがたい。被検挙者が実際は第一信号系により違法行為が生じたが、処遇を軽微にするためにその疾病性を隠そうとする場合には、治療を受けなければ再び違法行為が生じ易いこと、後の観察により違法行為は発覚しやすいことを弁護士が被検挙者に説明し、事実を話すように説得できる。また、検察官による調査も違法行為自体に留まらず、申立に従い就労状況や治療歴を調べるものになり、対象者の生活に迫り、実態を洗い出し、存在する問題を落とさず、裁判の精度を高めるものになるであろう。それらに対応した必要な要素を法曹並びに治療と訓練、観察に関わる者が多くの観点から検討し、被検挙者の中枢の設定を大きく改善する処遇の言い渡しに至るものになる。

学会印象記

条件反射制御法学会第七回学術集会を終えて

平井 愼二

 去る2018年9月22日に東京都千代田区にある中央大学駿河台記念館で条件反射制御法学会は第七回学術集会を開催しました。

開会式では近藤恒夫さん(日本ダルク代表、NPO法人アパリ理事長)からご挨拶をいただきました。有り難うございました。

自由報告では会員の皆様から臨床や矯正の場における活発な試みが、並びに裁判において条件反射制御法の効果とその基盤理論を基にした責任能力の程度を主張した弁護が報告されました。また、初めて国外からの報告があり、韓国の朴相運先生が「韓国における条件反射制御法の初の試み」という演題で、勤務する大同病院での条件反射制御法の展開を紹介されました。

臨床や矯正の場における事例の報告は、条件反射制御法を用いている我々はその技法を対象者に提供する技術や体制を向上させていることが十分に感じられるものでした。それだけに、この技法を広めるための方策に力を注がなければならないと感じました。

裁判での弁護に関する報告は、適正な判決の方向に条件反射制御法の効果とその基盤理論が良好に影響していることがわかりました。
当時者の方の報告はパニックを治すために平井の治療を受けた体験でした。彼女は、過去の体験の書き出しと読み返し、過去の体験の中に出てきた事物を単語で羅列する治療作業を行い、その治療作業により、過去の体験に基づき、現在、生じる望まない症状がなくなったのでした。

その治療作業の方法に関しては、学会誌「条件反射制御法研究第6号(2018年8月)」の26頁からの「体験の思い出しと書き出しによる本能行動の過作動の制御」をご覧下さい。

シンポジウムⅠのテーマは「生理的報酬が生じない標的行動再現の限界」であり、条件反射制御法の想像は行動のどこまでを行うかについて議論しました。当初から決着が付く問題ではないと考えていましたが、そのとおりであり、しかし、検討が深まりました。
シンポジウムⅡのテーマは「反復する違法行為に治療を義務づける方策」でした。反復する違法行為を検挙した場合には治療を義務づけるためには、検挙される前に、治療が必要な状態であるのに治療を求めなかった不作為に対して刑罰を与えることが一つの議論の焦点になりました。その焦点をこの∞メールに小論として掲載しました。

それらの2つのシンポジウムは条件反射制御法を日常的に利用している者、あるいは条件反射制御の基盤理論に従って裁判に関わる業務や更生の業務に関わっている者がシンポジストになりました。もちろん全員が会員でした。このことが深い議論に結び付いた要因だと考えています。

今回の学会で、条件反射制御法学会は会員数も少なく、まだ、異端扱いされがちながら、実は王道を突っ走っていると強く感じました。
条件反射制御法は相当な程度に疾病状態を治す技法として質が高くなり、その技法の基盤理論は、他の働きかけとの組み合わせのあり方に関して問題点を明確に分け、対応の焦点を分担できます。さらに、その基盤理論は司法制度に変更を促すものとして基本的なものになるはずであり、その理論に基づいた司法制度の青写真も実効的なものになりつつあると感じています。