∞メール No.21

 
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一部を抜粋したものを下に掲載しています。


会員の皆様
新たな年になりました。今年もよろしくお願いいたします。
第八回学術集会の後、日本犯罪社会学会での報告、下総精神医療センターでの薬物乱用対策研修および司法修習生選択型実務修習等を通じて、刑事司法体系についていろいろと考えておりました。
刑事司法体系では、「意思」と言うものがあり、それがヒトの行動を司ると考えられています。日常の生活でも、「意思」という言葉を使います。刑事司法体系による「意思」も、日常で使われる「意思」と同様で、ヒトは考えて行動すると理解されているようです。
しかし、現実は、ヒトの行動は第一信号系と第二信号系の関係により強い側の行動が生じるのです。考えて行動する脳と反射的に行動する脳が中枢の作用を行い、環境にはたらきかけるところでより強い系の行動が生じるのです。
このように理解を変えることは、天動説から地動説へ理解を変えたことと同様だと表現した人がいます。そのくらい、ヒトの行動原理に関しての理解を変えて、法を検討し、おそらくは根本的なところから再構成しなければならないのです。そうすることで、個人の健康を守り、社会を平安に保てます。
本当のヒトの行動原理が普及し、精神科領域の技法も刑事司法体系も変わるように、条件反射制御法を用いて対応した患者さんが目の前で示す反応をしっかりと捉え、検討を続けようと思うのです。

下総精神医療センターでのCRCT実地研修を受けて

目から鱗

一般社団法人社会支援ネット・早稲田すぱいく
社会福祉士・精神保健福祉士 久保田邦子
(2019年8月3日寄稿)

令和元年6月24日~28日に行われた条件反射制御法実地研修に参加しました。キャンセルが出たので穴埋め募集という、私らしい泥縄の「ノリ」で参加してしまったのです。実は私、東京社会福祉士会司法福祉委員会に所属し、刑事司法ソーシャルワーカーとして高齢者や障害者の刑事事件に関し、逮捕勾留段階から弁護士と連携し、福祉的支援を基本とした更生支援計画書を作成し、必要があれば情状証人として法廷で証言する等、「入口支援」をしています。
起訴猶予、執行猶予等で釈放された方や、矯正施設に収容された方の釈放後は、更生支援計画書で約束した通り、「出口支援」をしています。
8月某日に棒刑務所から釈放される某さんの入り口支援をしていた関係で、出所後は下総にお世話になる計画を実行すべく5月頃から動き始めていたところ、突然実地研修の空き情報があり、次回某さんの面会で、実地研修の体験談が出所までのモチベーションアップに使えるのではないかと、後先考えずに乗ってしまったのです。
6月に入ってから申込手続きを進めると、初日に簡単な試験があるから「事前学習をしておくように」とテキストが届きました。平井先生のことだから、テストが簡単だなんてありえないと疑心暗鬼になり、「時間がないのにテストなんて」と、研究事務をされている寺内さんに電話すると、「大丈夫ですよ。合格するまで担当が面倒見ますよ。」と、優しい言葉をかけていただきました。でも、「それはどういうことですか?」「なぜそうなるんですか?」と、追い込まれて頭が真っ白になる夢を見てしまい、申し込んだことを後悔していました。
初めて病院に伺い、研修棟に案内され、あちこち探検し、「一人で使わせていただけるなんて贅沢な」と思いながら、お向かいのパン屋さんでお昼を調達。いざ往かんと10病棟へ向かい、一緒に学ぶ優しそうな実習生に挨拶。
オリエンテーションが終わり、いきなりテストと言われ、「それはなぜですか?」攻撃に立ち向かう地獄の日程が始まりました。スタッフの皆さんの動きは私の数倍早く、一体今私はプログラム上のどこを走っているのか確認作業もおぼつかない有様でした。
2日目-疑似の設定 A子さん 被虐 放火。道具室で、良さげだけど火のつかないライターをご自分で探し、紙を2枚とそのライターを平井先生から渡された封筒に入れて準備OK。先生がドアから離れたところに封筒を置いて本番開始。いそいそと封筒を取りに行くA子さん。紙を丸めてライターで火をつけるマネ。「こげ臭かった。頭痛がする。」と変化を語る。行動の疑似・想像での刺激に対する反射症状の観察表に書き、今の気持ちをチェックして1回目の疑似は終了。後片付けをして2回目の準備。
先生が紙とライターの入った封筒をドアの外の見えないところに置いてくる。「やりたい?」ときかれ「そうでもない」などと言いながら封筒を取りに行く。戻ってきて封筒を開け、紙を取り出しライターを持ったところで先生からストップが掛かる。「げっなんで」と目を剥いたその形相が爆裂。目が釣り上がり怒髪天のよう。腕の筋肉に動きが見え、殴り掛かるのではないかという緊張感が現場に漂った。本人ムカつき、イライラ最高潮になったところで累積1294回目のオマジナイが始まる。「大丈夫」の後フーーっと、怒りで体いっぱい膨らましていた息を、しばし吐き出す静かな音が聞こえていた。
私はこの歳になって初めて「目から鱗」の体験をさせていただきました。この瞬間まで平井先生のことを、「思い込みの激しい人」と思っていたのですが、先生も同じ体験をしているからこそ忙しい現場で私達研修生を受け入れ、スタッフの皆さんが一丸となって研修生のフォローをして下さるのだと思いました。これからは「目から鱗」の体験を共有する仲間を増やすお手伝いをしたいと思っています。 

解説

上記の報告に平井愼二(下総精神医療センター)が解説を加えます。
上記の2回目の疑似放火では、まずは患者さんの第二信号系が、真似であると理解して放火の動作を開始し、行動を進めました。そのように意識的に進めた行動からでも、第一信号系は直ちに刺激を受け、その系にあった放火を司る反射連鎖が反応し、作動し始めたのです。疑似放火において患者さんが紙を取り出しライターを持ったところでは、放火を司る反射連鎖が相当に強く作動していたのでしょう。だから、私が患者さんに対して、放火動作を中断する指示を出すと、患者さんの第二信号系はそれに従って放火動作をとめたのでしたが、そこで、放火の行動を進めていた第一信号系の反射連鎖の作動と摩擦を起こし、怒りとして表現されたのです。
第一信号系の反射連鎖の作動は、本来は生きることを支える神経活動です。それをとめることは、息をとめるほどに苦しい状態にも至ります。上記の患者さんの場合は、おそらくは死にそうに苦しかったのです。だから、その苦しみを引き起こす指示を出した私に対して、直感的に激しく怒りを感じたのでしょう。
上記の疑似を終え、病室に帰った患者さんに問うと、「ぶち切れそうになって、手が出そうだった」のように言ったのです。また、もう一人の実習生は少年院に勤める方で、「護身術を使って、患者さんを抑えなければいけないかと思いました」と振り返りました。
でも、皆さん安心して下さい.条件反射制御法は危険ではありません。対応する方法を備えています。
条件反射制御法の第1ステージは制御刺激を少なくとも200回反復するステージです。また、制御刺激は目を開けたまま生活空間のさまざまなところを見ながら行います。疑似ステージが始まる頃までには、制御刺激と生活空間からの刺激は、安全な時間が始まる刺激になっているのです。
さて、上記の患者さんは中断の後、怒髪天を衝く状態になったのですが、制御刺激を行うと、第一信号系の過激な作動が治まり、第二信号系との摩擦がなくなりました。患者さんの怒りは数秒で治まり、「落ち着いた」と言い、表情は和らぎ、穏やかな患者さんに戻りました。
後に、上記の報告をした久保田さんが発した言葉は、「私のほうが、ほっとした」でした。

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