第6回研究会
(オンライン)

【テーマ】
薬物事犯に対する弁護活動と今後の刑事司法の展望について
2022年10月24日(月)
19:00~21:00

テーマ

薬物事犯に対する弁護活動と今後の刑事司法の展望について
【報告者】髙橋 洋平(髙橋洋平法律事務所 弁護士)

開催概要

●日程・開催時間
2022年10月24日(月) 19:00~21:00
※後半30分間は意見交換

●形式
オンライン開催 Zoom(※)で行います
※Zoom(ズーム)とは無料で簡単に使えるWebサービスです。事前にアプリのインストールが必要です。
PC、タブレット端末、スマートフォンでご視聴いただけます。ご視聴にはインターネット環境が必要です。
参加に伴う通信料は参加者様負担となります。

●事務局
条件反射制御法学会事務局

受講費について

(参加費用)
●会員
1,000円
●非会員
3,000円

(2022年度会員年会費)
●会員の方
2022年度年会費未払いの方は、お申込み時に年会費を併せてお支払いください。
会員参加費に加えて、2022年度年会費 5,000円

●非会員だが2022年度の会員になって参加する方
会員参加費に加えて、2022年度年会費 5,000円
※会員資格発生後は、学会誌の最新号と会員向けメールマガジンをお送りします。

(1)参加費はお支払い後、参加者様都合の場合、返金はできかねますので、ご了承ください。
(2)ご入金確認後、研究会開催3日前までには、お申し込み時のアドレスへ参加用URLを送信します。

お支払い方法
●郵便振替
自動返信メールの記載を必ずご確認ください。

●クレジットカード
申し込みフォームより必要事項を入力しお支払いください。
※決済プラットフォームはStripe(ストライプ)を使用しています。

申込み方法について

上記タブ「申し込みフォーム」からお申込みください。
※申込完了時に申し込みフォームに記載された「連絡先メールアドレス」に自動配信されます。
自動配信メールが届かない場合は、受付が完了していない場合がございます。問い合わせ先のアドレスに照会をお願いします。
※HP申し込みフォーム以外の郵送・電話・E-mail等による申し込みは受理できませんのでご注意ください。

募集期間

~2022年10月11日(火)まで
申し込み期間を10月20日(木)15時まで延長いたします。
ただし延長された期間はクレジットカードによるオンライン決済のみとなりますのでご了承ください。

注意事項

PCの問題、WEB接続環境が整っていない等の接続に関するサポートは行っていませんので、ご了承ください。

研究会についての問い合わせ先

下総精神医療センター  担当:寺内 〈受付時間:平日9:00~15:00〉
〒266-0007 千葉県千葉市緑区辺田町578番地
E-mail:crct.mugen@gmail.com 電話:043-291-1221(内線8328)

研究会当日の緊急連絡先

NPO法人アパリ 担当:尾田
電話:090-3047-1573

参加受付を終了しました。
たくさんのお申し込み、ありがとうございました。

第6回研究会「薬物事犯に対する弁護活動と今後の刑事司法の展望について」の紹介

髙橋弁護士と私は多くの薬物事犯の裁判を、弁護人と弁護される被告人の主治医として、正当な判決に近づけるために戦った。その中で忘れられないのは、初回の覚醒剤使用に対する刑の執行猶予期間が終了して、2年数か月ほど後に再び覚醒剤乱用で検挙された者に対する裁判である。その者は保釈を得て、私の病棟に2014年に入院し、年をまたいで2015年になり、事件からほぼ1年を経て言い渡しを受けた。次のような経過があった。

その者が入院したときには別の弁護士がかかわっていた。私はその弁護士との相談の日までに時間的な余裕が十分にある時期に、ヒトの行動メカニズムと条件反射制御法に関しての論説を送付した。相談の日に病院に現れた弁護士は、私が弁護の材料になることを説明していると、条件反射制御法の基本的なところに関して理解していなかった。本人は論説を読んだと言うのだが、それに何回も出てくる基本的な言葉について、初めて聞く言葉のように私に質問を連発した。恐らくはその様子のとおり、相談の日に初めて出会った言葉であったのである。そのようなやりとりでも5分ほどは続けたのだが、私は弁護士に対して、準備を整えてまた来るように伝えて、帰らせた。今から考えると、弁護士は、その被告人が実刑になるのは確実なのであるから、弁護人としてやれることは無いと判断していたのであろう。執行猶予期間終了の後5年以内の再犯はほぼ実刑になると現在でも言われており、弁護士の判断が私の推察どおりであれば当時では通常のことであり、従って、私が送付した論説を読まずに現れたのは、やれることはないと判断していたと思われる弁護士としては自然な成り行きだった。

弁護士を追い返したことを同席していた被告人に謝罪したところ、被告人は私の対応を讃えた。そして、その弁護士を解雇すると直ちに言った。私は被告人に髙橋弁護士を紹介した。

裁判では髙橋弁護士の求めに応じて意見書を書き、出廷して尋問を受けた。髙橋弁護士は、私に対する尋問では、条件反射制御法に対する被告人の反応の変化を私から効果的に聞き出した。また、私に対する尋問の日に被告人の父親も尋問を受けた。検察官による、後の社会生活において被告人が薬物から離脱するための家族の態勢に関する厳しく執拗な質問に対しては、父親は動じず穏やかに正しく語った。別の日にも法廷があり、母親が尋問を受けたと聞いた。髙橋弁護士は被告人本人にも家族にも丁寧に指導して、裁判を進めた。判決は執行猶予が付き、被告人は社会内での生活を続けることになった。髙橋弁護士からも司法の変化を感じさせるものであったと聞いた。

その者は、上記の入院治療から現在までの8年間、覚醒剤は使っていない。今も条件反射制御法の維持作業を継続し、就労し、3か月に一度受診している。また、その者が記入した条件反射制御法作業回数記録票の写真を、母親が毎月1日にLINEで送付し続けている。

上記の裁判を執行猶予に導いたのは、髙橋弁護士がもつ薬物事犯者に対する弁護の豊富な経験である。また、髙橋弁護士が薬物乱用者と接点をもつのは裁判を通じてのものだけでなく、回復支援施設ダルクと緊密に関わりを続けており、その活動を熟知している。ダルクの入寮者がエイサー(沖縄舞踊)を太鼓に合わせて踊るとき、その旗手を任せられるほどのつきあいである。

さて、髙橋弁護士による第6回研究会の抄録は、第11回学術集会の開催前に学会事務局に送付されたものである。

その抄録の中では、条件反射制御法と生活訓練の選択に関しては、「被告人に合致した方法を採用すべきである。」との記載があり、さまざまな解釈が可能である。一方、第11回学術集会のシンポジウムでの報告されたことの一つには、薬物に対する欲求の抑制には条件反射制御法が、社会性の障害にはダルクなどでの生活訓練が対応する働きかけであることが示された。

また、髙橋弁護士は抄録の中で依存という言葉を用いている。その抄録の中の他の部分における髙橋弁護士の言葉を借りると、日本の刑事司法体系は、法廷での無駄な闘争をやめられず、定型的な処理を改めず、中身のある本質的な内容に踏み込めないのである。髙橋弁護士のその見解に私も同意するのであるが、私はその原因を刑事司法体系の基盤とする理論が不良なのであり、それはヒトが行動する本当のメカニズムに関して刑事司法体系が誤った理解をもつことであると考えている。そして、その理由は、治療の実務や研究にかかわる者達が、ヒトが行動する本当のメカニズムを把握しておらず、従って、刑事司法体系の研究者達の誤りを正していないことであろう。その一端が、依存という言葉を放置しているばかりでなく、依存という言葉を治療の実務や研究にかかわる者達がまだ使っていることである。私は、反復する逸脱した行動を表す際に依存という言葉を使うことは避けるべきであると考える(当会HP∞メールNo.5参照)。その言葉が表す現象とは異なる現象で反復する行動を説明し、刑事司法体系を検討したのが、第11回学術集会のもう一つのシンポジウムであった。

刑事司法体系のあり方を変えるのは、その体系の中で働く者だけでなく、むしろ、薬物乱用者に対する援助の実務や研究に関わる者であり、その者達による刑事司法体系への実務における適正な協力、並びにヒトが行動する本当のメカニズムの提示であろう。

髙橋弁護士による報告では、上記のように通常ならば実刑になると思われるケースを社会内処遇に留めた多くの経験と、それらを成立させるために援助機関を裁判期間中に処遇に参加させた方法等が聞かれるはずである。また、上記の条件反射制御法と生活訓練の適用や、依存という言葉の使用の是非にも触れていただく。

2022年9月
条件反射制御法学会
理事長 平井愼二

テーマ:薬物事犯に対する弁護活動と今後の刑事司法の展望について

報告者:髙橋 洋平((髙橋洋平法律事務所 弁護士))

薬物事犯の裁判は極めて定型的であり、覚醒剤の事案であれば、1回目は懲役1年6月執行猶予3年であるが、2回目以降はほぼ実刑判決である。特に執行猶予中の再犯についてはほぼ100%実刑判決であり、初めて刑務所に入る場合でも相当長期の受刑生活を余儀なくされる。

このような傾向は、若干の変化も見られ、平成28年6月には、刑の一部執行猶予という新しい制度が導入された。ここでは、刑務所での処遇だけでなく、それに続く社会内での処遇が重要であり、それにより薬物等に対する依存を改善させることが共通認識とされた。

しかしながら、実際の裁判においては、刑事責任の重さにより量刑が決まるために、薬物事件を何度も繰り返し、依存の程度が極めて深刻であると評価されるような被告人に対しては、薬物依存の問題を改善する必要性がより高いにもかかわらず、刑の一部執行猶予の適用が消極的になっている。

このような現状において、薬物事犯に対する弁護活動としては、かつてのような被告人に反省を促すだけでは足りず、積極的に何らかの実践に取り組むことが求められている。そして、何らかの実践についても、何かをやればよいというものではなく、その効果が高いものが求められている。

具体的な内容としては、一例をあげれば、保釈制度を活用した早期の治療の実践であり、保釈の制限住居を病院に設定したり、リハビリ施設に設定したりして、裁判段階から治療プログラムに取り組む方法である。これにより、裁判時において、被告人の問題点等がより明らかになり、それに適した処遇策も考えられるところであり、裁判段階における処遇を前提に、より効果的な刑事施設における処遇とそれに引き続く社会内における処遇を設定することができ、これまで以上に連続した処遇が期待できる。

しかしながら、上記のとおり、刑事責任の重さを重視する裁判においては、裁判段階における処遇を充実させたとしても、そこでの貴重な実践がその後の処遇に活用されないことが多い。もったいない限りである。

今後の刑事司法の展望としては、このような刑事責任の重さを重視する裁判の変化が必要であり、まずは、刑事責任の重さ+αを重視するという理解を広げたい。+αというのは治療の実践等のことであり、裁判段階における貴重な実践をその後の処遇に活用したいところである。

具体的な手法としては、それぞれの方法に個性があるところであり、例えば、条件反射制御法は、入院期間が3か月程度で終了するものであり、保釈期間になじむものであり、また、ダルク入寮は、生活訓練を含むプログラムであるから、保釈期間で完結するものではなく、出所後を見据えた長期的な取り組みである。どちらの方法がよいということではなく、被告人に合致した方法を採用すべきである。

そして、法廷での無駄な闘争はやめるべきである。検察官は、弁護人が積極的に治療のアピールをすればそれを全力で潰し、再犯防止のためには、長期の刑務所収容が唯一の方法であるような、再犯率の高い実態に合致しない不毛な主張を繰り返すが、やめるべきである。国益の代表者である検察官が何とも滑稽な主張を繰り返すのか。むしろ真に必要な治療とは何かという本質的な主張を真剣にやるべきであり、これに対して弁護人が応戦することにより、当該被告人に必要な治療が明らかになるはずである。

なお、治療プログラムを受けたにもかかわらず、薬物事犯の再犯に及ぶ者も少なからず存在している。当該治療プログラムの治療内容や効果はもちろんのことであるが、これらの者が何故に再犯に及んだのかをより丁寧に検討することも必要である。そのためにも刑事司法においては、前述のとおり、法廷での無駄な闘争はやめるべきであり、そして、これまでのような定型的な処理を改め、中身のある本質的な内容に踏み込むべきである。それこそが今後の刑事司法の展望、いや、そもそも本来の刑事司法に求められていることであり、刑事司法はそのことに一日でも早く気が付くべきである。

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