∞メール No.17

∞メールの全体は コチラ からダウンロードできます。
一部を抜粋したものを下に掲載しています。

会員の皆様
実務でどんどんCRCTを利用してください。反復する問題行動や困った症状をもつ方がCRCTを受けられる施設に繋がり易くしたいと思います。
この∞メールにある事務局からのお知らせに「CRCTを受けられる施設を公開します」の項があります。ご賛同下さる方からのご連絡をお待ちいたします。

CRCTを受けた方からの報告

色んな事を考える余地が頭に蘇ってきた感じ

H.I.
(2019年5月15日寄稿)

私は、二十数年前の高校生のころから、万引きと摂食障害を抱えています。万引きはほぼ毎日で1日に何度も、食べ吐きもほぼ毎日で何時間もかけて、やっていました。その病気を治すために条件反射制御法の入院治療を受け、退院後の現在は維持を続けています。

治療を受ける前、私の万引きは日常生活の一部となっているようなところがあり、特別な意識をしないでも自然と惰性でやってしまうような状態になっていました。

何のために万引きするのかとかを特に考えてから行動するわけでもありませんし、捕まったらどうなってしまうのかなどを考える時間も余地がありませんでした。コンピュータのメモリが不足しているような状態で、それで自動運転で暴走しているような感じかと思います。

治療初期(疑似と想像)には、私は精神的にかなり揺さぶられました。

疑似や想像での反応は人によって異なるらしいのですが、私の場合には快感があるという反応ではなく、気持ち悪さや苦しさというものでした。疑似も想像もやり始めの数日間は本当に苦しくて気持ち悪くて大変な思いをしながら続けました。

疑似や想像では、自然とやるのではなく、一つ一つの動作や、自分の体や心の状態、周りの状況をよく意識し観察しながら取組みました。そうすることによって、自分のやっていたことの異常さとか捕まってしまうリスクなどを思い出しました。

だから、疑似や想像の治療が、かなり苦しく大変だったのかと思います。

疑似をしている最中に人の物音(看護師が通路を歩く音や、ドアを開閉する音)がするのですが、その物音を聞くだけでものすごく怖くなったのです。万引きをして捕まって連れて行かれた店舗事務所にいるような感覚になっていたのです。頭が痛くなったり呼吸が乱れたりという体の反応も出ました。

開始してから数日経つと心の反応も体の反応も減り、次第になくなりました。

疑似を約3週間(200回程度)してから、次に想像も始めました。想像ではまた反応が出ました。想像というのは、店舗で万引きをしているシーンだけではなく、朝起きてからの行動を想像します。店舗で万引きをしているシーンを想像している時に反応が出ると思われるかもしれませんが、私は、朝起きて家で過ごすシーンを想像するだけでも反応が出ました。ご飯を食べたり歯を磨いたり、そういうシーンを想像するだけでも反応が出たのでした。

反応は、頭が痛くなったり、頭が気持ち悪くなって発狂しそう(ウワ―って声を出したくなるような)になったり、吐き気がしたり、胸が苦しくなったり、というものでした。
万引きという行動を、特に意識してやっていたわけではなく、生活の一部としてやっていたようなところがあったからかもしれません。言い方を変えると、日常生活の何気ないことが全て万引きともつながっていた、ということなのかもしれません。

何か明確な一つの原因や動機があって万引きしていたわけではなかったので、何が原因になっているのか分りませんし、何もかもが少しずつ関係しているのかもしれないと私は考えていました。だから、私は朝起きてからの行動や周りのモノなどについて、詳細に思い出し想像するように努めました。

想像もはじめの数日間はとても苦しかったです。しかし徐々に反応は減少してそのうち無くなりました。

疑似や想像には「空振り体験を繰り返すことによって、その行動が無駄なのだと脳に刷り込ませる。」という目的があるようですが、私はそれ以外の効果も感じています。

疑似や想像をするとき、自分の体や気持ちに生じた反応を自分で観察記録票というものに記録していきます。時間も手間もかかる作業なので大変なのですが、この観察と記録が私にとっては効果的だったと思っています。観察票を記入することによって、自分のことを良く観察するきっかけになったと思います。

治療開始から2カ月半くらい経ってから、社会内疑似として、実際に本物の店舗に行って疑似をするようになりました。その時、万引きをしたい、という欲求が沸かないで自分の理性で自分の行動を制御できる状態になっていました。普通に堂々と外を歩けると感じられて、凄く嬉しかったです。

私は過去には万引きをすること自体に快感を感じてはいないのに、そして万引きを止めたいと思っているのに、それでも繰り返してしまいました。入院治療は万引きをしているピンポイントの状況やその日常で、自分がどのような気持ちになるのかを良く観察や分析する機会になりました。日常生活で習慣的に惰性のように続けてしまっている時には、観察も分析も出来ていませんでしたが、治療は精神状態や万引き行動を冷静に客観的に観察することにつながりました。

単純な快楽を求めるというよりは、何も考えないでも体が勝手に動くようなことをすることやルーティンワークをすることで精神を落ち着かせていたのかもしれないと思います。
また、勢いや習慣で動いていた時とは違って、1回1回をよく考えて行動することによって、万引きをすることで得られることや失うこと(物質的、精神的、短期的、長期的など色々な面で)が何かなどを今まで以上に深く繰り返し考えることになりました。

その結果、万引きはしない、したくない、できない、という感じになっています。

疑似や想像をした時の反応を、自分自身で丁寧に感じながらやることが大切だと思いました。概して反応は低下していきましたが、治療や入院中の生活で少し変化があると、反応も変化することがありました。反応が薄れたり、逆に強くなったり、違う反応が出たりします。変化がでても問題がないのかどうか、自分では判断がつかないので、私は平井先生に報告したり相談したりしました。

退院後は冷静に考えて行動できるようになっています。「普通」に買い物ができるようになったと思います。それがとても嬉しいです。

惰性で何となく行動するのではなく、一つ一つの動作の間に思考を挟めるような感じになって、「何となく万引きしてしまっていた」ということがありません。

維持は退院数日前から始め、退院後も継続しています。脳の信号系を「健全に保つ」為に欠かせないのだろうという認識でいます。

入院治療で一時的に状態が改善しても、生活習慣や日常が変わっていなければ、体や心もまた元の状態(悪い状態)に戻るということだと思います。うがいや手洗い、歯磨きや洗面、入浴などと同じようなレベルで続けて行きたいと思います。
今は退院をして社会内で維持作業をしながら、入院前の万引きに関して裁判を受けている最中です。

以前に万引きをしていた店の近くを通ると、万引きしていた時のことを思い出します。欲求が沸くわけではありません。あの店でああいう風にやっていたのだな、と思い出すのです。そして、その行動の異常さに恐ろしくなったり、もうあんなこと怖くてできないと思ったりしているところです。

治療前には、少しでも興味があるようなものを手当たり次第に万引きしているような状態でしたが、今では普通に必要なものを“選んで”買い物をすることが出来ています。やりたいという欲求はありません。客観的に観察して今の状況なら出来る、当時の自分はこういう状況でやっていた、と思い出すことはあります。そういう色んな事を考える余地が頭に蘇ってきたようなことを感じました。

以前は店を出るまでとか、店員に捕まってから初めて我に返るような感じでした。それが今では、色々な行動をしながら、冷静に自分の行動や精神状態を観察できるようになっている気がしています。

良いことや辛いこと等色々な事(刺激)と接して、その時に自分が何を感じるのか(嬉しい、悲しい、辛い、イライラする、等)、体にどのような反応が出るのか(頭が痛い、息が苦しい、胸が苦しい、汗が出る、等)ということ、よく観察しながら治療に取り組むとよいのだろうと思います。

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