∞メール No.2「小論 学習理論の誤り」

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小論 学習理論の誤り

平井愼二

 学習理論というものがあり,現在の心理学の基本とも言われているようである。また,精神科医師や心理学者は学習という言葉を使って患者の行動を表現することが少なからずあり、学習理論を受け入れているかのようである。その学習理論に著者は賛成しない。学習理論は誤っており,精神や行動に関する種々の分野の発展を阻害してきたと考える。

1)生理学における学習という用語の罪

 まずは学習という言葉を取り上げよう。この言葉が生理学においてヒト以外の動物の行動に関しても使われていることに問題がある。しかし,それを多くの研究者や臨床家が疑わず,受け入れて,精神と行動を考えているのである。学習理論が提唱された当初,学習と言う言葉がどのような使われ方をしたか著者は把握しきっていないが,現在,動物の行動にかかわる研究者や臨床家が学習という言葉を使うとき,ヒトによる学習とヒト以外の動物による学習の差異が不明になっているか,あるいは,同じものとして考えているようである。このために,ヒトの行動もヒト以外の動物の行動もそれらのメカニズムが誤って把握され,いずれの行動も正確に把握できていない現在の状態になったのであろう。

 つい最近,著者が担当する患者が精神保健福祉法に則って措置入院を不服として退院請求を行政機関に出した。行政機関から来訪した精神科医師が著者に対して「この患者さんは,覚醒剤を乱用したら不愉快な幻聴が生じることを反復しているのに,覚醒剤をやめられないのは,悪い結果が生じるので覚醒剤をやめるようには,まだ,学習していないのでしょうか」のように問うた。この質問を,多くの読者の方は不思議に思わないのであろう。しかし,著者は,学習という言葉の意味が不明確になっており,その言葉を使えば覚醒剤摂取反復のメカニズムを正しく説明できないことを伝え,この本の内容の要点を簡単に説明し,学習という言葉を避けて回答した。著者によるその回答の内容は伝わったようであるが,正しいものであるとその精神科医師が考えたか否かは不明である。
著者の回答はパヴロフ学説に基づくものであった。

 パヴロフは,自分の研究所の研究員が,ヒト以外の動物が感情や思考をもつと理解される表現を使うと,罰金を科したという。

 おそらく,例えば,犬を用いた実験の準備ステージにおいて,特定の音を聞かせて餌を与えることを反復し,その音の後に唾液が出る反応が対象の犬に定着したときに,研究員が「この犬は,その音がなれば,餌が出てくることを予想するようになった」のように言えば,罰金なのであろう。なぜならば動物は予想するという精神活動をもたないのである。唾液を出したのは予想したからではなく,その音の刺激を脳が受ければ唾液腺の筋肉が収縮する反応が生じる条件反射が成立し,その条件反射が作動したからである。

 あるいは,ネズミを用いた実験の準備ステージにおいて,ランプが灯ったときにレバーを押せば餌が出てくることを反復し,レバーを押して摂食する行動が対象のネズミに定着したときに,研究員が「このネズミは,餌を食べるためにレバーを押した」のように言えば,罰金なのであろう。なぜならば動物は目的をもって動かないのである。レバーを押したのは餌を食べる目的を果たすためではなく,ランプが灯る視覚刺激を脳が受ければレバーを押す反応が生じる条件反射が成立し,それが作動したからである。

 パヴロフは行動を制御するシステムを2つ見つけた。一つはヒトを含む動物全てがもつもので,特定の刺激が入れば対応する反射が連鎖的に作動し,対応する行動が生じるものであり,これを第一信号系とパヴロフは呼んだ。もう一つは,刺激が入れば,対応する反射は複数あり,同時に複数の反応が生じ,神経活動は複雑に絡みあって展開するものであり,これを第二信号系とパヴロフは呼んだ。これがヒトの思考に当たるものである。

 したがって,ヒトもそれ以外の動物も第一信号系をもつことから共通したメカニズムによる行動を示すところがあり,一方で,ヒトのみが第二信号系をもつので,行動においてヒトとそれ以外の動物の間には歴然とした差異がある。

 仮に学習という言葉が,体験により行動が変化することを指すとして,パヴロフが主張した行動制御システムにおけるヒトとそれ以外の動物の差異に着目して,学習を説明することを試みよう。そうすると,ヒト以外の動物は第一信号系しかもたないので,彼らの学習とはその系に後天的に新たな反射連鎖を獲得する現象を意味する。ヒトにおいての学習もそれと同様にするならば,後天的に新たな反射連鎖をヒトの脳の第一信号系内に獲得する現象をさすべきであり,第二信号系においてなされる体験後の自分による分析に従った行動変化や他者による指摘や指導による行動変化は除外されるできであろう。つまり,体験を伴わず,情報に基づいた行動変化は学習とは呼ぶべきではなくなる。

 あるいは,仮に,ヒトの第二信号系における行動の分析や情報に基づいた行動変化を学習と呼ぶならば,ヒト以外の動物の第一信号系での反射連鎖の獲得はあまりにも質が異なることから、それを学習とは呼ぶべきでなくなる。

 このように,繰り返しになるが,学習という言葉が生理学においてヒト以外の動物にも使用され始めた瞬間から,行動のメカニズムを正確に説明することが不可能になったのである。

 ヒト以外の動物を用いた実験から得られた結果でも,ヒトの行動の矯正に役立てられるべきであるが,学習という言葉が行動のメカニズムを説明する用語として用いられたことが引き起こした誤りのために,それらの実験は社会への貢献度が阻害されてきた。動物実験で得られた結果は,ヒトがもつ二つの系の一つである第一信号系の働きを知るものとして解釈されるべきである。このことを,学習理論を受け入れているヒトの脳では意識しないために,ヒトの行動に働きかける方法を誤るのである。

2)レスポンデント条件付けとオペラント条件付けの誤り

 ヒト以外の動物における反射に焦点を当てても学習理論には誤りがありそうである。学習理論を解説する教科書的な書物の記載では,条件付けをレスポンス条件付けとオペラント条件付けに分けて紹介しており,この分類は学習理論の一部と理解される。この分類に重大な誤りがある。レスポンデント条件付けとオペラント条件付けを二つの異なるものとする説明を著者は次のように理解している。

 まずはいずれも,実験に用いる動物において,ある刺激に対して何らかの行動が生じて生理的報酬が獲得されることが反復され,その刺激と反応として生じる行動で構成される条件反射を成立させている。その後,その条件反射の作動を観察するのであるが,その観察の標的の差異が二つの分類を作っているのである。

 つまり,実験の設定が動物に生じる反応の内,自律神経に生じる現象を観察するものであるとき,その刺激と反応の成立をレスポンス条件付けと呼び,一方,実験の設定が動物に生じる反応の内,動作に生じる現象を観察するものであるとき,その刺激と反応の成立をオペラント条件付けと呼んでいるのである。特にこのオペラント条件付けは規定に明らかな誤りがある。学習理論を説明する教科書的な本の説明を読むと多くのものが、オペラント行動は刺激のない自発的な行動であるのように規定しているが、刺激のない反応はなく、従って、刺激のない自発的な行動などはないのである。パヴロフは動物の神経活動は全て反射を作るものであり,この反射の連鎖が行動を作ると考えていた。この考えを含むパヴロフ学説から著者は次のように考えるのである。

 行動とは動物の神経活動の現象であり,各個体が活動する一生は種の進化の一部を支えるものであり,その一生の間に防御と摂食と生殖を行う。その行動の中では自律神経,感覚神経,運動神経を作動させるのであり,行動とは代謝,知覚,動作,これらの活動性のレベル(ヒトならば気分に該当する)を司る反射により成立するものである。つまり,行動を単なるその瞬間の自律神経の反応や動作であると捉えるべきではなく,活動性のレベル(ヒトならば気分)を含むその個体がもつ全ての神経活動が統合されたものであると把握するべきである。

 さて、反射は受容器に刺激が入力され,中枢に信号が伝わり,そこで処理され,効果器から反応が出力される現象を指す。その反射は,一つ一つの神経細胞の活動が重なったものである。神経細胞は樹状突起から入った信号を細胞体が処理し,いくつかの信号の蓄積で神経細胞体は信号を出し,軸策を通じて次の神経細胞あるいは効果器に信号を送る。このように反射の現象と各神経細胞の活動の概要を続けて書くと,そこには類似性があり,同質の連続したものであると感じられる。

 また、動物は当初,細胞数の少ない生物であっただろう。進化し,細胞数が増え,機能が分化し,自律神経,知覚,動作,気分をつかさどる系統に分かれた。従って,生じる反応は自律神経の変調,気分の変調,動作として観察できる。しかし,それらはいずれも,環境からの刺激に対して生物種を保ち,環境に適応する方向に各個体が全身を用いて行う一つの反応としての行動における各神経系の現象である。決して,別々のものとして考えてはならない。パヴロフの反射に関する研究は,飼育係の靴音を犬が聞いて唾液を出す現象を観察したことから始まったとされているが,その後、研究は進み,パヴロフ学説は,ヒトを含む動物の行動と進化に関して体系化された理論を示すものとなったのである。

 しかしながら,前記したように学習理論では行動を、誤って各機能に意味があると考えて分解し,自律神経の反射と動作の反射を取り上げ、それらをそれぞれレスポンデント条件付けとオペラント条件付けと呼び、このレスポンデント条件付けの部分だけにパヴロフ学説が留まると規定し,すでに時代遅れになっているように聞こえる古典的条件付けという呼び名も与えたのである。

 つまり、我々は行動を理論的に検討し論じるときには学習という言葉を使ってはならず、また、レスポンデント条件付けとオペラント条件付けもその概念を捨てるべきであるのである。

御礼

~本研究会にご理解、ご支援いただきありがとうございます~
ご寄付ありがとうございました
株式会社メトグリーン様・小菅梨央様
あたたかいご支援に改めて御礼申し上げます。

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