∞メール No.14

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一部を抜粋したものを下に掲載しています。


会員の皆様
この∞メールNo.14は平成最後のものになります。
私はやり残したことが沢山ありますが、皆様はいかがでしょうか。
令和では、いろいろなことに遅れないようにと考えています。

裁判傍聴マニアの方から

現在の裁判はいつまで続くのか、どこかでごろんと変わるのか

今井亮一
(2019年2月1日寄稿)

 なにを隠そう、じつは私は裁判傍聴マニアでもある。マニアになって丸16年、交通関係に限らず8100事件以上を傍聴してきた。大報道された殺人とか芸能人の覚せい剤とか、人が押し寄せる事件はあまり興味がない。社会的に重要と思えるのに報道されず埋もれていく事件、そういうのに私は興奮する。変態である(笑)。

 ここ数年、女性被告人の「窃盗」(常習累犯窃盗を含む)に注目してきた。メルカリで売るため大量万引きした、男の部屋に泊まり金品を盗んだ、というのもあるが、多くは病的な万引きだ。窃盗症、クレプトマニアという言葉を傍聴席で初めて知った。

 「そんなおかしな病気があるもんか」
 「病気のせいにして逃げようってんだな」
 世間は99%そう思うだろう。だが、どうやら窃盗症は確かにある。アパートを持って悠々自適だったり夫が高収入だったりするのに、何度も捕まって「もう絶対しません」と心底誓ってきたのに、次に捕まれば刑務所行きと分かっているのに、スーパーやコンビニに入るとすべて吹っ飛んでしまう。

 そうした女性たち(ときに男性もいる)を我が国はどう扱うか。
  1、微罪処分警察止まり。
  2、起訴猶予検察官止まり。
  3、罰金刑1回目は20万円か30万円、2回目は50万円が相場だ。
  4、執行猶予付き懲役刑ここで初めて正式な裁判の法廷に被告人として立たされる。
  5、懲役刑の実刑執行猶予が取り消され、ダブルで服役することになる。
 量刑相場のこの階段をのぼらせるのである。病者の万引きは刑罰では止まらない。刑務所を出た翌日に同じスーパーで万引きした女性もいる。治療こそ必要と思われる。だが検察官、裁判官は「病気のせいで万引き」という形をひどく嫌う。「病気は背景事情」とし、「二度としません」と誓わせて満足する。あんたらこそ病気では?と私は傍聴席で思う。

 ただ、多くの裁判を傍聴していて思うのは、がつんと効く治療法はどうやらないらしいということだ。本人自身も「そんなおかしな病気があるもんか」と考えるのか通院を途中でやめてまた万引きするケースがよくある。入院中は万引きできず、退院してまたやる者もいる。どうしたらいいのか。

 2017年4月、「窃盗」の裁判が東京地裁で始まった。被告人(女性)はひどい摂食障害で、万引きが止まらない。過去に2度、執行猶予判決を受けていた。猶予期間は満了しているが「社会内での更生の機会を2度も与えられたのに」と今回はもう実刑が相場だ。

 弁護側証人として平井愼二医師が出廷した。聞いたことないなぁ、誰?ところがその証言に私は激しく打たれた。人には2つの脳があり、人間脳が「もう絶対しない!」といくら誓っても動物脳が万引きへと駆り立てる。動物脳の過作動は幼少期の過酷な体験からくる。窃盗症の万引き裁判を多く傍聴してきた私は謎が解き明かされた気がした。検察官は「これって治ることがあるんですか」と突っ込んだ。平井医師は「はい」ときっぱり答え、「条件反射制御法」について説明した。判決はなんと3度目の執行猶予だった。3度目は珍しい。

 翌年、東京高裁の「覚せい剤取締法違反」でまた平井医師の証言を傍聴した。被告人(男性)は覚せい剤で起訴され、保釈中にまた覚せい剤を使って実刑判決という事件だった。覚せい剤をやめられないのはなぜか、どう治療するか、平井医師の証言はじつに説得力があった。被告人は、平井医師のもとでの入院は「地獄の治療」だったと振り返り、こう述べた。

 「とても変化がありました。今は覚せい剤に対する欲求はゼロ%です。今、目の前に覚せい剤を出されて『お前も…』と言われても千%やりません」

 裁判官は治療効果を認め、実刑を破棄して逆転執行猶予とした。うわぉ! 

 がつんと効く治療法があるのだ。しかし条件反射制御法のことが出てくる裁判はなかなかない。検察官、裁判官は「もう絶対しません」と誓わせて満足し、量刑相場の階段をのぼらせる。いつまで続くのか、どこかでごろんと変わるのか、見張り続けていきたい。

解説

まずは、執筆家の今井氏が私からの依頼に気軽に応じ、投稿して下さったことに深く感謝したい。
文中のいくつかに関して平井愼二(下総精神医療センター)が解説する。
■「地獄の治療」について
被告人が「地獄の治療」と形容したのは、下総精神医療センターの反復する行動に対応する専門病棟で用いているプログラムで条件反射制御法を軸にして構成されている。「地獄の治療」という言葉をその言葉のままとってはいけない、とここまで書いて、やはり入院中の苦しみはその言葉のままとることが良いかとも考えた。ただ、地獄と異なるのは、その地獄の後には、囚われから解放された天国のような生活が待っていることで、永遠に苦しむ地獄とは異なるものである。
他にも地獄とは異なるところがあり、可能な限り地獄でないように、苦しまないように工夫はしている。
条件反射制御法は次のように進む。
1.制御刺激ステージ 制御刺激反復
良かった事の書き出し
2.疑似ステージ 標的行動の疑似と制御刺激の反復
辛かったことの書き出し
3.想像ステージ 標的行動の想像と疑似、制御刺激の反復
体験の読み返しと1話に付き20単語の書き出し
4.維持ステージ 頻度を下げて標的行動の想像と疑似、制御刺激の反復
体験の読み返しと1話に付き20単語の書き出し
条件反射制御法を受ける者は、疑似や想像を開始した当初は刺激に対して生じる反応が強いので、標的の行動を構成する自律神経や気分の変調があり、また、標的の行動の動作が生じそうになって、苦悩や焦燥を感じる。生じる苦悩や焦燥は、行動を生じさせる反射連鎖を作動させる刺激の量に比例して高まる。
従って、条件反射制御法のステージ進行は、制御、疑似、想像の順であり、第一信号系に与える刺激の量は、少ないものから徐々に多いものになっている。始めから多くの刺激を与えれば、第一信号系は激しく反応して、苦悩や焦燥を感じるである。
まずは、制御刺激で標的行動に関連する言葉を入れ、少ない量の刺激を与え、少しの反応を生じさせ、反射の作動性を低減させる。その後、疑似で、より多くの、しかし、想像よりは少ない量の刺激を与え、反応を低減させる。その後に、想像でより多くの刺激を与え、反応を低減させる。
また、制御刺激はその後には標的の行動を進行させない設定で行い、並びに、病棟内ホールや自室で制御刺激を開眼して行うことを反復するので、制御刺激は後に標的行動が進まない刺激になり、並びに、病棟内のさまざまな視覚刺激は患者に対して、疑似が開始されるまでに、安定した精神状態を導く刺激に成長している。後に、疑似や想像で刺激を受けても、病棟内の空間は患者の精神状態を安定させる視覚刺激に満ちているので、患者は安らかに時間を過ごせる。
さらに、体験の書き出しは、良かったことを先にして、辛かったことを後にしている。辛かったことで強い反応が生じたときに対応できるように、先に良かったことを制御刺激ステージで書き出し、辛かったことを書き出しているときに苦悩や焦燥、抑うつが激しくなったときは、制御刺激をして、良かったことの書き出しを読むようにして対応している。
それでも条件反射制御法は苦しい。病棟の看護職員や研究補助員が、治療が進めば精神状態が安らかになること、維持作業に入れば楽になることを予告し、患者を勇気づける。
■「動物脳」と「人間脳」について
条件反射制御法は、信号系学説に基づいている。この学説は、ヒトは第一信号系と第二信号系の2つの中枢をもつとするものであり、これらの中枢を今井氏はそれぞれ動物脳、人間脳と表したのである。
■「どこかでごろんと変わるのか」について
今井氏による上の記載は条件反射制御法の目的に合致する。
条件反射制御法学会の会則に次の記載がある。
「第3条 本会は、ヒトの行動原理を明確にして、生活を阻害する神経活動が反復して生じる状態に対する条件反射制御法 の実践技術の向上を図る学術研究の促進、並びに反復する違法行為に対応する社会制度のあり方に関する学術研究の促進を目的とする。」
条件反射制御法学会は、ヒトの本当の行動原理である信号系学説に基づいて、精神科領域の技法だけでなく、司法を含む社会制度をも対象に、いずれ、どこかでころんと変えることを目的にして、研究を進める集まりである。

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