∞メール No.13

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会員の皆様
新年度になりました。
ヒトの行動原理を見つめ、対応する技法と制度をはりきって探求しましょう。
∞メールNo.13をお送りします。

CRCTを受けた方からの報告

私はCRCTに前のめりになった

K.K.
(2019年2月15日寄稿)

 私は2018年7月初旬から10月初旬までの3ヶ月間、覚せい剤使用障害で下総精神医療センターへ入院した。

 私が覚せい剤使用障害であると自覚した当初、覚せい剤関連の本を読み漁り、現在の日本では認知行動療法が主流だということを知った。そして、私もこの治療法で「回復」を目指すべきと考えていた。

 しかし、私の裁判を担当して下さった弁護士の先生から下総精神医療センターの条件反射制御法が私には合っているとアドバイスを頂き、下総精神医療センターで条件反射制御法を受けることにした。

 入院当日、病院に到着してから平井先生の診察を受けた。この時の平井先生の第一声を今でも鮮明に覚えている。

 「K.K.さん、覚せい剤、やりたいでしょう?でも、この治療を終えると全くやりたくなくなるから、期待してて!!」

 平井先生の自信満々なこの一言で「この治療法に賭けてみよう」と決心した。

 どんな病気の治療でも患者と医師との間でのインフォームドコンセントは重要だと思うが、この治療法においては特に両者の同意とラポール形成がとても大事だと思う。意思疎通がうまくいかない場合、条件反射制御法理論がどんなに優れたものであっても、望んだ結果は生まれない

 ここからは治療内容と各ステージでの私の感想を書いていこうと思う。

【第0ステージ】治療への導入

 平井先生作成のテキストを熟読することにより条件反射制御法を理解することだ。学生時代に心理学を学んでいた私は理に適った治療法であることを直感的に理解した。と同時になんて面白い理論なんだと前のめりになった。テキストの熟読そしてテスト合格後に、『制御刺激ステージ』に入る。

【第1ステージ】制御刺激

① 胸に手のひらを当て「僕は今」、
② 親指を外に出した状態で拳を握り「シャブは」、
③ 親指を拳の内側に入れて「できない」、
④ もう一度握り直して「大丈夫」。
 私は上記のように制御刺激を設定した。暫くは第一信号系が「シャブは」という言葉に反応して動悸がしていたが、数日繰り返すうちにそれも治まり、問題行動をしない刺激へと変化した。制御刺激ステージと並行して『良かった(楽しかった)事の書き出し』を行う。まずは100字程度の簡単な書き出し、その後に詳細な書き出しを行う。上記の作業は心を整えるのに大変有効だったと思う。
 制御刺激ステージ終了後には問題行動をした1日の描写文を作成する。覚せい剤を摂取した代表的な1日の行動を詳細に文章化する作業だ。
この作業では第一信号系が過作動を起こす。作業中には覚せい剤を使用する直前と全く同様の動悸や手の震えが起こっていたことをよく覚えている。

【第2ステージ】疑似ステージ

 覚せい剤に見立てた粉末を疑似摂取する。
 各人の摂取方法に合わせて道具を用意してもらい、摂取の真似をする。そして、10回に1回は途中で止める。これを200回。
正直言うと、覚せい剤の粉末以外はリアル感に欠けるため、個人的には大きな反応は起こらなかった。私の場合は疑似摂取だとしても、覚せい剤を摂取する行為をすることに抵抗感を持っていた(やりたくないと思っていた)ので、10回に1回の中断が嬉しかった記憶がある。
やりたい状態は全く満喫できなかった。
 疑似作業と同時に『辛かったことの書き出し』を行う。まずは100字程度の簡単な書き出し、その後に詳細な書き出しを行う。辛かったことの書き出しは非常に辛かった。自分を否定される出来事を書き続けることはかなり気分が沈む。
 この作業は他の患者さんたちとのコミュニケーションがあったからこそ、何とかやり切れたかなと思う。条件反射制御法は自分自身と向かい合う治療法であるので、孤独ではない環境が非常に大事だ。
 『辛かったことの書き出し』が終了したら、次のステージへ進む。

【第3ステージ】想像ステージ

 覚せい剤を使用した1日(24時間)の行動を頭の中で想像するものだ。個人的にここはこの治療の本丸ではないかと思っている。
 覚せい剤を摂取した1日の行動パターンをできる限り思い出す。その後、思い浮かんだものを20個書き出す。この作業でも生理的報酬がないことで問題行動の反射連鎖が低減し、最後は想像することすらできなくなる。
 長期に渡って覚せい剤を使用してきた人は想像できるパターンが多種に渡るため、入院中には潰し切れない恐れがある。治療後に想像ステージで使用しなかったパターンが頭の中に思い浮かび、渇望や欲求が甦ってくる可能性もあるため、通院でのメンテナンスがとても重要だ。

【第3´ステージ】内観療法

 約1週間に渡り、家族を中心に3人のお世話になった人について「してあげたこと」「してもらったこと」「迷惑をかけたこと」について内観するというものだ。時間をかけて振り返ることができるため、過去の人生を整理し、この先の生き方を考えるにはとても有意義な時間だった。

【第4ステージ】維持ステージ

 治療の最終ステージだ。問題行動の反射連鎖が甦らないようにするため、制御刺激を1日5回、疑似を2回、想像を2回、描写文の読み返しを1日1回、毎日繰り返す。
 上記作業と同時に、すでに書き出した良かったこと(楽しかったこと)と辛かったことを用いて、まずは1話読み、その後に思い返しながら浮かんだものを20個書き出す作業を、それぞれ1日に最低5話分行う。この作業をすることで良かったこと(楽しかったこと)の記憶はより鮮明になり、逆に辛かったことの記憶は想像ステージと同様に消えていった。
 ここで、良かったこと(楽しかったこと)と辛かったことの書き出しとその読み返しについての私なりの考えを述べてみたい。
まず、ノートにボールペンで書き出すという行為が、スマートフォンやパソコンへ打ち出すこととは全く別領域の脳を使っている感覚になったことが新鮮だった。
 この作業はアナログであることが重要なのかもしれない。良かったこと(楽しかったこと)の書き出しに関しては、書き出していることで「色々と楽しいこともあったな」と幸福感を覚えた。
 この作業は第二信号系で自分の過去を肯定的に捉え、更には「生きたい」という第一信号系をも刺激するのではないかと思う。書き出すだけでなく、読み返し、20単語を書き出すことにより上記の刺激は更に強固なものになると自分自身の作業でも実感した。
 辛かったことの書き出しに関しては、書き出しの段階では不快感や怒りが残るだけだった。特に私の場合は幼少期に父親から粗末な扱いを受けた経験や、小学校低学年時に担任からのいじめを受けた経験など思い出したくもないことを思い出すと吐き気すら覚えた。正直、書き出しが終わった時はもう思い出さなくていいのだとホッとした。と同時にこの心理状態のままこの治療が終わってしまうのかという疑問も浮かんだ。
 私の疑問は維持ステージで読み返しをしたことで解決した。
 嫌々ながらも毎日5話分読み、20単語を書き出し続けた。最初は読む度に不快感を覚えたが、読み進める毎に段々と不快感が薄れ、穏やかな気分に変化した。この反応は想像ステージで段々と想像ができなくなる感覚にかなり近いものだった。この作業は私にとって過去のトラウマから自分を解放する効果があったと思う。
 現在も回数は減らして上記の作業をしているが、特に父親に対する特別な感情は全くと言っていいほど生じていない。
 今回の入院で色々な患者と共に過ごして強く感じたことは、幼少期に本人が生死を左右するほど過酷だと感じる時期を過ごしたヒトは、そうでないヒトと比べると第一信号系が過作動してしまう傾向が強いということだ。
 第二信号系では死にたいと思っていても、第一信号系では生きる方向へ脳が働くアンビバレントな状態であれば、第一信号系が過作動するのも至極当然なのかもしれない。
 個人的には、この書き出しと読み返しを通して過去のトラウマを解決できたことが条件反射制御法の効果をより強固なものにしてくれたように思う。
 また、このステージでは外出と外泊も認めてもらった。初回の外出は社会に出た瞬間に覚せい剤に対する渇望が甦ってこないか心配だったが、そんな心配は不要だった。完全に覚せい剤の渇望、呪縛から解放されていたのだ。本当にうれしかった。条件反射制御法の効果を自ら劇的な形で体験できたのだ。
 
 退院してから4か月以上経つが、欲求は全くなく、とても幸せな生活を送らせてもらっている。私の治療の経験を生かせることがあれば、積極的に協力をしていきたい。現在の私の状況を作って下さった皆さまには心より感謝を申し上げたい。

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