研究会誌第二号の発刊に際して


条件反射制御法学会 会長 平井愼二

条件反射制御法(以後、CRCTと呼ぶ)の治療ステージの中では、第1ステージである負の刺激設定ステージが最も重要である。個々人に合わせたルールを取り入れてキーワード・アクションを淡々と続けるという地味なステージであるが、問題行動の観察期間にもなり、生活全般を見直す期間にもなりうる。強迫性障害などは、第1ステージを続けるだけで軽快し、そのまま維持ステージに移行できる。

しかしともすれば、第2ステージである疑似刺激ステージがCRCTの本質であるかのように誤解されがちである。特に覚醒剤乱用に対しての専用キットなどは視覚的インパクトも大きく、マスコミなどに疑似刺激ステージのみが大衆の関心を引くように取り上げられ、誤解を広げてしまうことがある。

キーワード・アクションは連続して行わずに20分以上の時間間隔をあけるように指導される。物質乱用なら、キーワード・アクションの後の20分間は乱用とは無関係の時間にしなければならない。ギャンブルも盗癖も強迫行為も同様で、20分間は問題行動がない聖域にすることがルールになる。これを繰り返し、キーワード・アクションの後には問題行動がない時間が続くことを定着させるのだ。だから、最初のうちはリスクがありそうな場所ではキーワード・アクションはしない。パニック障害やPTSDの場合は、キーワード・アクションの後には危険や恐怖がない時間が続くようにしなければならないので、楽しいエピソードを思い出す作業や入浴、アロマ、単純な雑用などで20分を過ごすように指導される。キーワード・アクションの後に平穏な時間が訪れることが定着するように、色々な場所で繰り返して、回数を積み上げていく。

このことから、キーワードアクションは人間が心の平安を求めて唱えてきた祈りの言葉、お題目、念仏なども連想させる。繰り返し続けるうちに、祈りの言葉を口にして十字を切ること、手を合わせて頭を下げ南無阿弥陀仏と唱えることで心が鎮まる時間が訪れるような信号として育っているのかもしれない。

CRCTに取り組む人たちが、鍛え上げたキーワード・アクションで、どのような刺激、恐怖、悪魔の囁きも撃退できるようになることを願っている。

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